第2話 祖母からの便り(2)

 窓からの暖かい風を感じながら望月詩乃は祖母からの手紙に頭を悩ませていた。


 (——月影荘。アパートの大家かぁ。)


 大学在学中から執筆活動を始め、卒業してそのまま作家になって早数年。20代も後半に差し掛かっているが、これまであまり人と関わってこなかった。


(私にうまくやれるかな…。)


 でも、執筆活動が行き詰まっているのは事実。段々と都会の騒がしさにうんざりしてきたのも事実。そこに月影荘といういかにも物語が始まりそうな話が舞い込んできた。ファンタジー作家としてこの話に乗らないのはいかがなものか…。


 ふと、手紙と一緒に入っていた月影荘の写真を見る。こじんまりとしていてかなり年季が入っているが、その古さがレトロな雰囲気を醸し出していてとても魅力的である。


 なんとも私が好きそうな建物である。祖母が兄ではなく私に話を持ちかけた理由がわかる。あの自由奔放な兄に大家業が務まるとも思えないが…。


(まぁ、私に戻ってきてほしいのもあるのかな)


 私が東京の大学に行くと言ったとき、家族は私が決めたことだからと心快く送り出してくれた。でも、幼い頃から図太い兄と違って私はなにかと家族に心配をかけてきた。


 いつも私を気にかけてくれる祖母からのお願いだ。恩返しのつもりで引き受けてみるのもありかもしれない。祖母ももう高齢である。今のうちに心置きなく大好きな旅に出かけてほしい。


 よしっ…!気合いを入れて長時間椅子に座ってバキバキになった身体を伸ばす。私の気持ちを後押しするかのように春風がビュンと吹いた。


 

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