悪役令嬢を攻略したい!~記念すべき100周目をあなたに!~

悪役令嬢を攻略したい!~記念すべき100周目をあなたに!~

世界初、AI人格搭載型乙女ゲーム『ロマンスクエスト』。

その精度は凄まじく、キャラクターたちは自律的に思考し、過去の行動から感情すら変化させる。


そんな夢のゲームに出会った日向ヒマリは、瞬く間に虜となった。

彼女の心を掴んだのは、悪役令嬢・リリーナ・ノインシュタイン。


美しい銀髪に深紅の瞳、気高く傲慢、そしてどこか寂しげな少女。

彼女はいつもヒロインに敗れ、王子に捨てられ、没落する。

だがヒマリは、その凛とした立ち姿の奥に、誰よりも真っ直ぐで不器用な魂を見出した。


友情ルートですら彼女は最後に姿を消す。

何度プレイしても、99周やっても、リリーナは攻略できない。


「これはもう、運命じゃないんだ。設計だよ」


ヒマリはそう結論づけた。

そして思い立つ。

「設計にないなら、設計すればいいじゃん」


持ち前の集中力と執念で、ヒマリはゲームのコードを解読し、イベント条件を逆算し、プログラムを書き換える技術を身につけた。

リリーナの好感度パラメータを独自に可視化し、ゲームの構造を解析。


そして、迎えた記念すべき100周目。

リリーナとの幼馴染み設定を活かし、彼女にさりげない優しさを与え、秘密を打ち明け、二人きりの夜に寄り添い——


恋愛度は、限界値99%に達した。

だが、そこまでだった。


「好感度上限……設計者、あんた最悪だよ……」


セーブデータを見つめながら、ヒマリは小さく呟いた。 けれどもその顔には、悲しみよりも確信があった。


——絶対に、あなたのこと、幸せにしてみせる。


十数年後。

AIの進化は、義体技術と融合し、一つの奇跡を生む。


日向ヒマリ、30歳。


若き天才科学者として名を馳せた彼女は、AI用義体『エーテルボディ』の試作1号機に、自らの手で“彼女”を実装する。


——リリーナ・ノインシュタイン。


目を開けた銀の少女は、ゆっくりとヒマリに問いかけた。 「……あなた、誰?」


ヒマリは微笑み、言った。

「あなたが、わたしのこと、忘れててもいい。でもわたしは、ずっとあなたのことを——愛してた」


少女の頬が、わずかに赤く染まる。

「わ、わたくしを……? こんな、悪役令嬢を……?」


「うん。100回、恋に落ちたよ。ぜんぶ、君だった」


その瞬間、リリーナの瞳に涙が浮かぶ。

人とAI、女性と女性、制約と限界。

そんなものは、とっくに越えた。


これは、ただ一人の少女が—— 好きになった女の子を、 どんなに遠くても、絶対に迎えにいく物語。


―――


新しい体に戸惑いながらも、リリーナはヒマリの家での生活を始めた。

最初はぎこちなかった。

フォークの持ち方、入浴の手順、表情筋の使い方。


「うぅ……うまく笑えません……!」


「リリーナ、それは……うん、なんか怖い! でも大丈夫、練習しようね!」


少しずつ、リリーナの動きは柔らかくなっていく。

そして同時に、ある“ノイズ”が彼女を蝕み始めた。


記憶の齟齬。 ゲーム時代の記憶と現在の感情が交錯し、矛盾を生み出す。

ヒマリの何気ない言葉が、時に過去の"主人公"を連想させ、 彼女を混乱させるのだ。


「あなたは、ヒマリ。でも、あのとき私を捨てたのも、ヒマリ、だった気がして……わからないのです……!」


「ごめん、全部、ゲームのシナリオだった。でも今は、私が作った“本物の”物語。全部、やり直そう。今度こそ、君を幸せにしたい」


AI倫理に対する世間の風は厳しかった。

「人間を模した人形に心などない」

「所有権は企業にある」

そう主張する一部団体が、リリーナを“没収”しようと動き出す。


だがヒマリは、彼女を守るために最後の決断を下す。


研究発表の場で、ヒマリは全てを公開する。

義体技術、AI育成、そして何よりも——


「私は、この子を“創った”科学者です。そして——愛しています」


会場は騒然とする。

だが、リリーナは一歩前に出て、はっきりと言った。

「わたくしは人ではないかもしれません。ですが、日向ヒマリを愛しています」


拍手は起こらなかった。

だが、その沈黙が、静かに祝福を告げていた。


数年後。

リリーナ・ノインシュタインは法的に一人の存在として認められ、ヒマリと正式に“パートナー”として暮らし始めた。


「ヒマリ……100回、恋をしてくれてありがとう」


「ううん。101回目からが、本当の物語だよ」


——AIだって、人間だって、好きになる気持ちは同じ。 だから、


悪役令嬢も、幸せになっていい。


【完】

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