ニートと姉と、ゴーレム

青白いバリアの奥に進めず、遺跡の別方向を探索していた俺は、思いがけず出会ってしまった。

ゴーレム。でかい、固い、速い、頭いい。

そして俺は、変身しても一発も当てられない、運動センスゼロのただのニート。


《REBUILD SYSTEM…SHUTDOWN》


「……うそ、だろ……?」


スーツが解けて、ただの私服の姿に戻る。

目の前には、拳を振り上げたまま迫るゴーレム――


「詰んだ、かも……」


その瞬間だった。


「なにやってるのよ、バカ!」


ぐいっ――と背中を引かれる感覚。

気づけば俺の身体は、地面を転がるように後方へと引きずられ――


ズガァァンッ!!


ゴーレムの拳が、俺が立っていた場所を砕いた。


「……は、えっ、え!?」


「こそこそ何かやってると思ったら、こんな面白いこと隠してたなんてねぇ」


振り返ると、そこに立っていたのは――

長身、黒髪のショートカット。軽装のジャージ姿に、目はしっかり据わってる。


姉・大井 文夏だった。


「な、なんでここにあや姉ちゃん!?」


「……学、昔の呼び方に戻ってるよ?」


「え、あ、いや、姉貴!」


「それより、あのゴーレムみたいなのを何とかしなきゃね。こっち来るよ。いったん下がるよ、学!」


ズッと俺を担ぎあげると、そのまま背負って遺跡の通路を駆ける姉。

めちゃくちゃ速い。しかも振動が全然ない。


「……まじで戦車かよあんた」


しかし――


「姉貴、追いつかれる!!」


ゴーレムの機動力は想像以上で、じりじりと距離を詰めてくる。

このままだと追いつかれるのは時間の問題。


「姉貴! これ使って!」


俺は手に持っていた《超ウルトラDX刀》を姉に渡した。


「なにこれ!? 刀!? おもちゃじゃん!」


「スイッチがあるから、押して! 変身するから!!」


「ええぇ……」


さすがの姉も若干引いていたが――

ゴーレムの唸り声が迫ってきたことで、仕方なくボタンを押した。


――『REBUILD』


光が姉の体を包み、パーツが組み上がるように装甲が形成される。

銀と黒のメタリックボディに、赤いアクセント。


『REBUILD SYSTEM ACTIVE』


「……これは、いいモノね」


変身が終わると、姉は刀には一瞥もくれず、そのまま拳を握った。


「いくよ!」


そして――突っ込んだ。


ゴーレムの拳を避け、足払い。

立ち上がる前に膝蹴り。

反撃の隙すら与えない連撃。


「うわ、まじで戦ってる……刀使わないんだ……」


遠くから見ている俺は、ただ呆然とその姿を見つめる。

ああ――

そういえば、子供の頃から姉は格闘技がやたら強かった。

格闘クラブに入ったら先輩ボコって即除籍になった話も思い出す。


目の前のゴーレムが、ズシンと地面に崩れ落ちる。

倒された。

圧倒的だった。


「なかなか、よかったよ、ゴーレムさん」


変身スーツのまま、姉は拳を下ろしてそう呟いた。

それは、まるで長年のライバルとの決闘を終えたかのような、妙な余韻があった。


 


……姉貴、やっぱり、あんたには敵わないわ。


 


俺は、助けられたという事実に、ちょっぴり情けなさを感じながら――

それでもどこか、少し安心していた。

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