ニート、姉に説明する

あのゴーレム事件のあと、

俺たちは無事に“遺跡”からスーツケースを通じて帰還した。

そして、今――俺は自室の布団の上で、頭を抱えている。


「……で、なんであのタイミングで来たの?」


俺の問いに、姉――大井文夏は当然のような顔をして答えた。


「こそこそ何かしてたの、分かってたわよ。

あんたの部屋から叫び声とか毎日聞こえてたし、それに今日はスーツケースが開いてて、中に梯子が見えてたのよ? あんなの“見てください”って言ってるようなもんじゃない」


「え……マジで……?」


「それより、説明してくれる?」


バンッ! と俺の布団に手をつき、顔をぐいっと近づけてくる姉。

目が……キラキラしてる。完全にスイッチ入ってる。


「は、はい……」


逆らえるわけもなく、俺は《デイリーガチャ》の仕組みから、スーツケースと遺跡、ゴーレムのことまで、全部話した。


一通り話し終えたあとも――姉の目は、輝き続けていた。


「やっべ……このままだと、姉貴絶対なんかやらかす……!」


俺は布団を転がりながら、部屋の隅のスーツケースにダッシュ。

ごそごそと中を漁り――あった。


《約束守らせ券》


「姉貴! これを使わせてもらう!」


「なにそれ?」


俺はどうゆうものか教えると、


「えー…」


「えー、じゃない。姉貴は口が軽いし、何しでかすか分からないし、こういうのちゃんとしないと!」

 

「……まぁ、口が軽いのは否定できないし、うん。いいよ、使いなさいな」


意外とあっさり。


俺はルール通りに説明し、姉に“約束”を聞かせる。


「いいか? 約束は二つ。

『勝手にガチャの景品を外に持ち出さない』。

『勝手にガチャ関係のことを周りに言わない』。

これだけ」


「はいはい、わかってるってば。……っと、名前書けばいいのよね」


姉は《おなまえ》の欄に「大井 文夏」と、綺麗な字で記入した。


ぴかっ――と一瞬、紙が光る。

どうやらこれで、契約は成立したらしい。


「で?」


「で、って?」


「遺跡探索してもいいわよね? あとこのおもちゃの刀も使わせてね?」


「えっ、それは――」


姉の目が、スッと鋭くなった。


「だって“勝手に”はダメってだけでしょ? あんたの許可があれば問題ないわよね?」


ぐぅ……正論すぎて何も言えない。

しかも姉は“圧”がすごい。子供の頃からそうだった。


「……は、はい……」


結局、俺は頷くしかなかった。


《超ウルトラDX刀》を手に持って、にこにこと微笑む姉。

その笑顔が――妙に怖かった。


俺の遺跡探索は……まだ始まったばかりなのに、

すでに前途多難な気がしてならなかった。

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