46話:エピローグ

「大勇者さまー!!」

「リアムさまー!」


アスガルド王国の王都ミドガルム。


そこは今、“大勇者の婚姻”で沸きに沸いていた。


“勇者リアム”は、前代未聞の大偉業を成し遂げた。魔王の完全討伐を果たしたのである。


歴史上、たびたび魔王は復活し、そのたびに勇者が現れる。

魔王は勇者に倒されるが、勇者は戻らず、数十年から百年ほどで魔王は復活を繰り返してきた。


この世界の歴史では、魔王は復活を繰り返してきたのだ。

だが、今回王国に仕える予言者が述べたのだ、”魔王が完全に消滅した”と。

それと同時に、エルフヘイムからの使者で、聖剣の勇者が”リアム”という若者であることも王国に伝えられた。


王国はこの大偉業を成した”リアム”に”大勇者”の称号と、”英雄伯”という特別な爵位を送った。

さらに、リアムの仲間である”3人”、聖女セレスティアには”聖士爵”、戦士グレッグには”騎士爵”、魔導士エリシアには”魔法爵”を送り、4人を”稀代の英雄”と讃えたのだ。



そんな大勇者であるリアム英雄伯と、セレスティア聖士爵の婚姻は、王都を上げての一大イベントとなった。

王都のメインストリート、その沿道には大勇者様と聖女様を一目見ようと、人々が溢れる。

そのただ中、金糸で装飾されたオープンタイプの白い馬車に乗ったリアムとセレスティアが、笑顔で手を振りながら進んでいく。



「本当の英雄は僕じゃないと思うんだけどなぁ……」

笑顔を崩さず、リアムはぽつりと零す。


「そうでしょうか? 私はリアム様こそが、一番の英雄だと思います」

セレスティアも笑顔で手を振りながら告げ、


「彼らは、すごい力を持っていました。でも、彼らだけだったら、こんな平和な世界は実現できなかったと思います」

セレスティアはリアムと目を合わせる。いつものように、にこやかな、優し気な笑顔。だが、そこには、確かにそれ以上の親愛が含まれていた。


「私も、そんな貴方に惹かれたんです」

頬を赤らめつつ、しかししっかりと視線を合わせて告げるセレスティア。


「僕にとっては、君こそが最高の英雄だよ」

馬車の上で、二人が口づけを交わす。

沿道からは歓声と花吹雪が上がった。



「いいのか? エリシアもあそこに並んでいても良かったと思うぞ?」

リアムとセレスティアのパレードを遠巻きに眺めつつ、グレッグは隣にいるエリシアへと告げる。


「両手に花って、リアムはそういうタイプじゃないでしょ、ケンタの奴じゃないんだから」

エリシアはフンと吐き捨てるように言う。


「それに、マギアヘイムからの追放が解除されたんだもの。こんなところで甘々新婚生活してる場合じゃないわ」

エリシアは鼻息荒く、「古文書が私を待ってるのよ」と呟く。


「はっ! まあ、らしくていいかもな!」


「そういうアンタこそ、なんで私についてくるのよ」

「ん? 俺か?」

エリシアに問われたグレッグは、


「エリシアは何かと危なっかしいからな。俺が守ってやらねぇと」

「なっ……」


案外天然ジゴロな素養を見せる。

そんなグレッグの言葉に、まんざらでもない反応を見せるエリシア。


「熱中すると周りが何も見えなくなるし、戦闘中だって詠唱中は完全に無防備だったぜ? 俺が何回庇ったか」

「あ、そ……」


グレッグの苦言に、エリシアは「私のときめきを返せ」と言わんばかりに、半目で吐き捨てるように応えた。


「それに、マギアヘイムの連中は、もっと広背筋の鍛え方を指導しないとな!」

「そっちがメインでしょ、アンタ……」


飽きれた表情を見せつつも、エリシアとグレッグは連れ立って王都から旅立っていく。



********



ここは大陸の西方、『光の連合』ルミナス・アライアンス。


”連合”は、さまざまな種族が国を作り、緩やかな同盟によって成り立っている。

広大な土地と人口を持つが、魔の砂漠デモンズ・デザートとは接していないため、魔王軍との戦いでは直接的被害をほぼ受けていない地域だ。


そんな連合のある地方都市で、


「例のモノは?」

「はい、つい先ほど完成いたしました。婚約者をネタに脅してやりましたら、あの魔導技師、大層協力的になりまして」

「ふっ、お主もワルよのぅ」

「いえいえ、ご領主さまほどでは……」

厳つい貴族の男と、肥え太った商人らしき男が、領主館で密談している。


そんな領主館の庭から、


『はーい、そこの悪人たちー、今すぐ悪事を停止してくださーい』

拡声器を使った呑気な声が響いた。


「何奴だ!」

「侵入者だ、出会え出会え!!」

庭で拡声器片手に叫んでいたケンタの周りに、何人もの騎士が現れ、一斉に剣を抜く。


騎士たちに囲まれたケンタは、険しい表情を浮かべる。


「なんで俺がこんな囮役を……。最終回の法則でカップル乱立する中、なんで俺は一人なんだよ! 俺にも”俺を全肯定してくれる彼女”を切実に所望するわ!」

険しい表情の理由は全く別件であった。


「何を訳の分からぬことを。やれ!!」

一斉に騎士たちがケンタに襲いかかる。


「ついに俺の時代だ!」

叫びながらケンタが背中から取り出したのは、一本の棒だった。

刀の柄のみのようなそれを握ると、鍔の先から、光の刃が出現する。


「はっはっはっはっはっ! 俺だっていつまでも、ただの“死なない男”じゃねえんだよ!!」

光の刃を振り回す。刃部分が延長し、鞭のようになって周囲の騎士たちを薙ぎ払う。


「ががががががが!!」

「うげげががが!!」

光の刃に触れた騎士たちは、感電したように痺れ、倒れていく。


「貴様まさか、ダークイーターとかいう──」

「そんな恥ずかしい名前の奴と一緒にするな! 俺は」

光の刃を打ち払いつつ、ケンタは告げる。


「漆黒の牙、ダークブレイド!!」

光の刃を使うくせにダークブレイド、そして、牙なのか剣なのか……。ともかく、本人会心のヒーロー名を告げた。


「おい、アレをだせ」

「しかしご領主さま、あれは……」

「今使わずにいつ使うのだ!」

「わかりました」

商人風の男が「おい」と使用人に指示をすると、使用人は一礼して去っていく。



庭ではケンタもとい、ダークブレイドが高笑いしつつ光の刃で騎士たちを蹂躙していた。

すると、突然大地が揺れ始める。


「おっとぉ……、は?」

ふらつきながら見上げたケンタは口を開いた状態で呆気にとられた。



──ボォォォォォ……

──ボォォォォォ……



身長30mはあろうかという巨大なゴーレムが、領主館の裏側から二体出現したのだ。


30mのゴーレム二体と、自分の手にある”漆黒の牙”を見比べるケンタ。


「よし! もう悪事はするなよ!」

踵を返し、脱兎のごとく逃げを打つ。が、


進行方向に巨大な岩が落下する。


「ぎゃっ!」

ゴーレムが岩を投げ、ケンタの逃げ道を塞いだのだ。


「俺死んでも死なねぇぞ! 二重の意味で”痛い”の来る前に辞めといた方がいいぞ!!」

完全に負け惜しみの虚勢としか思えない叫びをあげるケンタ。


「ゴーレム、やれ!!」



──ボォォォォォ……


ゴーレムが巨大な手を広げ、ケンタを押しつぶそうと迫り──




『ジャッジメントスマッシャァァァァァァァァ!!!!』

『エリミネートインパクトォォォ!!』



2体のゴーレムは閃光に穿たれ、瞬間爆散した。



「ほらみろ! ”痛い”のきたぞ!」

叫ぶケンタの後頭部をレイジが引っ叩く。


『お前それ、絶対違う意味で言ってるだろ』


「くそっ! 息ぴったりで必殺技かましながら登場しやがって! 宿で毎晩の訓練の賜物だってか!? ぐふぇ!!!」

ルナが放った拳打でケンタの頭部が爆散した。


「……」

『……』

『……』

悪徳領主とレイジとルナの間で、一瞬なんとも言えない空気が漂う。



──ボォォォォォ……

──ボォォォォォ……

──ボォォォォォ……



空気を読まず、悪徳商人が更にゴーレムを繰り出した。


「いくら貴様らでも、これだけのゴーレム相手では……」


『私たちは闇を祓う者たちダークイーターズ

『お前らの闇を祓いに来た』


彼らの戦いは続く。






どこかの宇宙、どこかの次元。

ゼノンは、モニター越しに一連の顛末を見届けていた。


「いやぁ、何とかなって良かった良かった。よし、次はアレ作ろ」


トラブルのタネは消えないようだ。




- 完 -


******************


これにて完結となります。

ここまでお読みいただきありがとうございました。


評価などいただけるととても嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

元ブラック社畜は、異世界でヴィランの彼女と最強の正義を成す はとむぎ @dicen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ