第4話 不幸せが幸せの罪。
私の知っているものすべては、カスタネットプライオリティ的だ。なぜなら、固有名詞ばかりを溜め込み使い熟せず、私と世界と空とどこかの誰かさんがいるからだろう。それらにちょっとした軋轢が生まれ、後に死んでいく荒んだ毎日が非常に美しく感じられたのだ。霞んだ輪郭。ベッドに絡みつく窮屈な時間。積み上げた努力とその嘘。すべての物事の群れが泳ぐ。ただただそこにあるだけ。恐怖と安堵と執着が折り重なる完全性定理。観測もただの勘違い。決まったことの循環。私はこの光景を観るだけでしかない。彼女との会話は確かに存在していた記憶の断片なだけ。そうなのだから仕方がない。でも何故だか、私はそれに囚われて諦めるのではなく脱獄しようとしているのだ。私は探求という名の暴力を振るうようになってしまった。
荊楚の空のようなただの色付けを捉えることしかできず、皮肉を試みる余地がない。私の目に映る信仰の資料。それに付随させるが如くこちら側に引きずり込んでしまう。きっと、そうだ。瑞希は、私を知っている。私のものを弄らしく盗んで、命の美学について騙りかける。飲み干して無くなるまで平気で嘘をつく。波の音に吊られる瑞希と私はどこか似ていた。だからかな、貴方のせいで私はこんな悪い女になってしまったのだ。前髪の分け目を決めるほど都合の良い人間ではないのだから、聞こえる嘘も美しく感じてしまうのだと思う。読めない文章を読めるように、書けない言葉を紡ぐように明日のカマキリに刺されるのだろう。誰もいなくなった場所。どこまでも沈んでいて底が見えない海。空いた砂浜に足を呑み込ませることをプログラムされた私。纏わりつく劇薬とその少女。儚いとはなんだろうか。これのことを言うのか、だとしたらきっと間違っていたのだろう。帰宅を許さない物語を作詞するためだけに。瑞希というブラックホールに脚を踏み入れたせいでスパゲッティ化したのかどうかわからないが、私の手が握り締めているものは救われないものだった。疲れた心を癒す一種の迷いとして、貴方という治験に身を捧げてしまったのかもしれない。波の色と恋文をシュークリームのように膨らませて弾んだ体に絶望するのだ。存在の数奇を打診して。それを終わらせた先に待っているものが死でも私はそれを受容するだろう。そして、その嘘も美徳も周波数という鎖として変圧できると思うから。心をもっと教えてほしい。
(由美子)
私は今シャトルを握っている。夏に咲いた花を見つめて。
瑞希「由美子、バド部に入部して正解だったね!」
すべて高音が踵に擦り寄って散る。
それは亡霊のように、誰の記憶にも残らない。
歩けば歩くほど、背中に羽音がつきまとう。
彼女の声が聞こえているが羽は堕ちていく。
私「‥。私なんかがサポートで入部しろって言われた時は驚いたよ。幽霊部員でも許してくれるって言われたから入ったんだ、だからね。」
何か不安定な心の振動が彼女の眼振から伝わる。少し唾を飲んだ後、瑞希はさっぱりと喉を開いた。
瑞希「そうね。でも来てくれたから嬉しいよ。」
死ぬほどしてきた後悔も何かどうでも良いものに感じた。
リマインドされた信義則について私は知っていた、いや理解していたはずだ。けれど目の前に映る風景をどう言葉に翻訳しよう。トンチキ騒ぎの猿の中、私は上手くやっていると思う。それにしても、不条理は不協和音のように私のグリップを締め付けるのだ。
シャトルは力学的にちゃんとここに落下すると見込んでいたが、私の目に打つそれは捩れ込んで軌道を変えた。
瑞希「ちゃんと見て!!試合一緒に出るつもりだから!」
私「え?そんなの聞いてない。こんなんじゃ勝てっこないし。それに、私続けるとも言ってない。」
瑞希「センスあるのにー。一生のお願い!」
私「は?」何回瑞希は“一生のお願い”を使うのだ。永遠だと思っているのか。私は嘲笑した後、調理した感情をサーブにぶつけた。
白癬(はくせん)を歩いているようなものだ。投げやりの玉を必死で追いかけるその姿を縁どるように、ただ目で追ってるような気がした。それは自分の合わせ鏡のように瑞希を私として映し出して、安心しているに過ぎないのだろうが。複素数みたいに沈んで残り続けるのが煙たい。
しかし私は、なぜかガラス玉をラムネ瓶の中に入れ込みたかったのだ。錯綜していることは美しいのか、それとも念頭を失う亀なのか。都合の良いものに踊らされてしまう私を助けてほしい。会話をあらかた続けた後、慣れた校舎を後にして感覚を消した。そこに存在していなかったことを肯定するために。危ないものは現実的に遠ざかる。作戦的に私は乗っかるわけにはいかない。帰り道とは、遠いものだ。距離は近いはずなのに体が離れていってしまう。意識とは何か。私は存在するのか。そんなしょうもないことばかり考えて堕落していく。日に日に悪魔にコントロールされてしまっているのか。瑞希という存在は不思議と魚の骨のように歯に挟まるものだ。妨げるものばかりでは減らせない。どんどんと吸収されてしまうのだ。スポンジは吸うことが幸せかのように笑う。では瑞希もそのように笑ってくれるのだろうか。たくさんの薬が私を選ぶように、私は彼女を選べるのか。捜索した海辺に落とした死体を拾うのだ。そうでもしないときっと置いて行かれてしまう。こんなにも接着剤にならないと生きていけないのか。依存と愛は異なっているものにしか思えない。だから怖いのだろう。突かれた言葉は刺さるのではなく屈折して逃げられないのだ。空気が薄いこの坂を登ることは困難な上、とても望んだように思えなかった。水泳も陸上もこれと言って得意なものではない。建設的な光になりたい。登る。登らなきゃならない。切れる呼吸と多数決の美学。自由とはなんだろう。私は心に留めるだけとどめておいて後で考えようと思った。その後私は坂を登れたのだろうか。しかし、そんなことは覚えていないのだ。正義を求めて鎧に閉じこもった言葉は土足なのだろう。記憶の一片に慣れたのならそれでいい。いまはただそれだけだ。
(瑞希)
私は、言葉という言葉を明文化できないほどに傷害致死罪を重ねてしまうのだろうか。
知らないふりをしていた。そもそも愛とか分かるわけがないのだ。親子関係は最悪だし。恋という恐ろしいものなんてしたことがない。
この空のように入道雲が螺旋階段のように続いていて愛を語らせようとする。強制されてしまう。脳という情報体のせいで。メールの通知音ほど恐ろしいものはない。昨日、私と彼女は契約をした。したはずなのだ。それは、同じ部活に所属してもらって、試合に出てもらおうと。私は結局のところ根底に孤独があって取り繕うことは得意なのだが。それしかできないので組む相手がいないことはないが由美子と組みたいのだ。震わせた声で頼んだ気がするが由美子ならやってくれると思っていた。この甘い何かを咥えたところでさらに罰を受けるのだというのに。文面上で語ることと心を騙ることは違うのだ。とりあえず連絡が来たからそこに目をやる。後ろ姿のアイコンで名前が英語だ。メールはお気に入りにしているからすぐ目についた。心を弾ませてビットをなぞる。落ち着き心と不安な心などの形のならないものたち。スキー履のように脱ぎづらい。滑るのは覚えたら簡単だが山を下る時は鳥肌が立つ。それと同じ感情なのだと思う。ごめんね。と言うことができたら大人になれるのだろうか。惰性の日々の中でやりたい事をしよう。したらきっとあなたといられたことが唯一の生きた証になるのだから。
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