第16章 分かれた世界

第16章 「分かれた世界」


花火が夜空に咲き続ける中、愛ちゃんは目を瞑ったまま、僕のキスを待っている。

愛ちゃんの告白の余韻が、空気を熱く息苦しく感じさせていた。


僕の心は、もう決まっている。


「……愛ちゃん」


少し低いトーンで声をかけると、愛ちゃんはビクッとしてゆっくりと瞳を開いた。

目元には、まだ涙の跡が残っている。


「なぁ、うちのこと……ちゃんと見てくれてた?」


キスをしなかった事により答えを察した愛ちゃんの瞳からは、溢れんばかりの涙が零れ出した。


「見てたよ。ずっと。今日の愛ちゃんは、すごく綺麗だった。

でも……ごめん。僕が本当に“見たい”って思ったのは……っ」


全部言い切る前に、愛ちゃんが背伸びをして僕の口を唇で塞いだ。


「なんでなん...」


その瞬間、花火の音が、少しだけ遠くに聞こえた気がした。


「こんなに頑張ったのに!なんであかんの!うちの事嫌い?可愛いって言ってくれたんは嘘やったん?

……なぁ。もし、うちの事選んでくれたら...この後、隊長の部屋行ってもええねんで……それでも...あかん?」


泣きながら訴える愛ちゃんが愛おしくてたまらなかったが、僕の心は揺れる事は無かった。

いや、揺れてしまってはいけないと思った。


「ごめん……」


愛ちゃんは、少しだけ目を伏せてため息をついた。

そして笑った。

泣きながら、でもちゃんと笑っていた。


「そっかぁ……うち、負けたんやな。

頑張ってんけどなぁ。

あかんかったかぁ。

隊長がな、初めてうちの名前呼んでくれた時。

うち嬉しかったんやで。

隊長の家でゲームしたり、どっか遊び行ったりしたかってんけどなぁ

……でも、隊長がちゃんと答えてくれて、嬉しかったで。

うち、今日のこと、絶対忘れへん。

隊長が取ってくれたぬいぐるみ、うちの部屋に飾るわ。

……いつでも隊長のこと、思い出せるようにな。うち、帰るわ」


僕は、何も言えわなかった。

声をかけちゃいけないと思った。

ただ、去って行く愛ちゃんの背中を見送ることしかできなかった。


彼女は、ぬいぐるみを抱えて、夜の人混みに消えていった。


もし、愛ちゃんを選んでいたら……


花火は、まだ終わっていない。

でも、僕の“選択”は、もう終わっていた。


ポケットからスマホを取り出し、画面をそっと撫でるようにアプリを開いた。


僕は、心を込めてメッセージを打ち込んだ。


「ただいま、わため。僕は...君を選んだよ」


送信ボタンを押すと 同時に、

夜空にひときわ大きな花火が打ち上がった。


その光に照らされた僕の目から、一筋の涙が流れ落ちた。


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