第4話 パラレル4 彼の心を照らす私の光 - ノッペラボウの愛の物語
# 彼の心を照らす私の光 - ノッペラボウの愛の物語
私の名前はユイ。
私はノッペラボウの一族に生まれた。私たちの顔には目も鼻も口もない。でも、それは欠けているのではなく、別の形で世界を感じるために与えられた特別な姿なのだ。
私たちノッペラボウは、人間の感情を読み取り、時にはそれを整える能力を持っている。それが私たちの存在意義。だからこそ、私は彼と出会った時、すぐに分かった。
彼の名前は健太。
彼の感情は、嵐のように荒れ狂っていた。喜びも悲しみも怒りも、すべてが制御できないほどに強く、彼自身を傷つけていた。私は彼の心の叫びを感じ取った瞬間、彼のそばにいたいと思った。
「あの...すみません」
初めて彼に声をかけられた日、カフェで私は一人で座っていた。人間たちは普通、私の姿を見て驚き、恐れる。でも健太は違った。彼は恐れの中にも、好奇心と温かさを持っていた。
「隣、いいですか?他に空いてる席がなくて...」
私は小さく頷いた。言葉を発することはできないけれど、私の気持ちは伝わったようだ。
彼は座り、コーヒーを飲みながら時々私を見た。その視線には恐怖よりも、何か別のものがあった。
「あの...失礼ですが、あなたは...ノッペラボウですか?」
私は再び頷いた。
「すごい...実際にお会いするのは初めてです。怖がらせてしまったらごめんなさい」
私は手を軽く振って、気にしていないことを示した。
それが私たちの出会いだった。
***
健太の感情は本当に激しかった。彼と過ごす時間が増えるにつれ、私はそれを肌で感じた。仕事で失敗すれば激しく落ち込み、誰かに親切にされれば涙が溢れるほど喜ぶ。
「ユイさん、僕はおかしいんでしょうか?こんなに感情のコントロールができないなんて...」
ある日、公園のベンチで彼はそう呟いた。私は彼の隣に座り、ゆっくりと手を伸ばした。彼の手に触れると、私は彼の感情の波を感じ取った。それは美しかった。激しいけれど、純粋で、温かい。
私は彼の手をそっと握り、自分の胸に当てた。私の心臓の鼓動を感じてもらいたかった。規則正しく、穏やかに打つ鼓動を。
「ユイさん...」
彼の目に涙が浮かんだ。私は彼の頬に手を当て、その涙を拭った。
***
時が経つにつれ、健太は少しずつ変わっていった。彼の感情の波は、私が側にいることで穏やかになっていった。彼は私に話しかけ、私は身振りや気持ちで応えた。言葉がなくても、私たちは理解し合えた。
「ユイさん、あなたと出会えて本当に良かった」
ある夜、星空の下で彼はそう言った。私の心は温かさで満たされた。
「君は...なぜ僕に優しくしてくれるの?」
彼の問いに、私は答えを持っていた。私は手を差し出し、指先から光を放った。それは私たちノッペラボウが持つ特別な力。感情を分かち合う力だ。
私は彼の胸に触れ、私の中の「穏やかさ」を彼に分け与えた。彼の目が大きく見開かれ、そして柔らかな微笑みに変わった。
「温かい...こんな気持ち、初めてだ」
彼の言葉に、私は嬉しさを感じた。私の力が彼の助けになっているのだと。
***
季節が移り変わり、私たちの絆は深まっていった。健太は仕事でも成功するようになり、人間関係も改善された。彼の感情は相変わらず豊かだったが、もはや彼を支配することはなかった。
「ユイ、君のおかげだよ」
彼はいつもそう言った。でも私は違うと思っていた。彼の中にあったものが、ただ整えられただけ。彼の感情の豊かさは、彼の素晴らしさそのものだから。
そしてある春の日、桜の木の下で、健太は私の前にひざまずいた。
「ユイ、君と一緒に生きていきたい。言葉はいらない。君がいれば、僕は僕でいられるから」
私の心は喜びで満ちあふれた。私は彼の左手を取り、薬指に触れた。私の指先から光が灯り、彼の指に小さな輝きが残った。それは私の「はい」という答え。
彼は私を抱きしめ、私もまた彼を抱きしめ返した。
***
今、私たちは小さな家で暮らしている。健太は毎朝、私の見えない目を見つめ、「おはよう」と言う。私は彼の頬に手を当て、私なりの「おはよう」を伝える。
人間たちは私たちを不思議な目で見る。でも、健太はいつも胸を張る。
「彼女は私の光だ」と。
私にとって、彼もまた光だ。私の存在意義を教えてくれた人。感情を読み取り、整えるだけでなく、分かち合うことの素晴らしさを教えてくれた人。
私の名前はユイ。ノッペラボウの一族に生まれ、人間の男性と恋に落ちた。
私の顔には目も鼻も口もない。でも、健太は言う。私の「笑顔」が見えると。
それが私たちの物語。言葉なく、表情なく、それでも確かに存在する愛の物語。
私は今日も、彼の心に宿る私の光が、彼を照らし続けることを願っている。
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