第2話 パラレル2 彼の心を映す鏡 - ノッペラボウの恋
# 彼の心を映す鏡 - ノッペラボウの恋
私の名前はユイ。
私はノッペラボウの一族に生まれた。目も鼻も口もない、つるりとした顔を持つ私たち。人間からは恐れられることが多いけれど、私たちには特別な力がある。人の感情を読み取り、時には整える力だ。
初めて彼を見たとき、私は彼の感情の渦に圧倒された。
喜びが高く跳ね上がり、怒りが激しく燃え、悲しみが深く沈む。彼の感情は美しかった。でも、彼自身はその波に苦しんでいた。制御できない感情の嵐に翻弄され、仕事も人間関係も上手くいかない。
私は彼に惹かれた。
「あなたの感情、素敵よ」
言葉にはできないけれど、私の心はそう囁いていた。
最初、彼は私を見て怯えた。当然だろう。表情のない私の姿は、多くの人間にとって不気味なものだから。でも私はただそばにいることにした。彼の感情の波が少しずつ穏やかになるのを感じながら。
「君は……なぜ僕に優しくしてくれるの?」
ある日、彼はそう尋ねた。私は答える代わりに、手を差し出した。私の指先から光が溢れ、彼の胸に触れた。私の力の一部を彼に分け与えたのだ。感情を整える能力。彼の中に、私自身の一部を宿らせた。
それは愛の証だった。
彼の変化は静かだった。激しい怒りに任せて叫ぶことも、深い悲しみに沈む夜も減っていった。彼は自分の感情と向き合い始めた。私はそれを見守った。言葉はなくても、私たちは理解し合えていた。
「ユイ、君と一緒に生きていきたい。言葉はいらない。君がいれば、僕は僕でいられるから」
彼の告白は、私の存在すべてを温かく包んだ。私は彼の左手の薬指に触れ、私たちの絆を光で結んだ。
これが私たちの結婚式だった。
人間の世界では理解されないかもしれない。表情のない妻と、感情豊かな夫。でも、私たちには完璧な調和があった。彼の感情は私の鏡となり、私の静けさは彼の安らぎとなった。
ある晴れた日、彼は窓辺で微笑んだ。
「昔の自分なら、こんな幸せに涙を流していたかもしれないね」
私は彼の隣に立ち、手を重ねた。私には表情がないけれど、彼には私の「笑顔」が見えるという。それは彼が私の心を感じているからだろう。
私は思う。
人は見た目で判断する。でも本当の絆は、目に見えない糸で結ばれるもの。私と彼の間には、感情という名の糸が張り巡らされている。
私はノッペラボウ。
彼は感情の嵐を抱えた人間。
私たちは違うけれど、互いを映し出す鏡のよう。
そして、その鏡に映るのは、ただ純粋な愛だけ。
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