彼女の輝き-のっぺらぼうの感情継承

赤澤月光

第1話

# 彼女の輝き ― ノッペラボウの感情継承


私の名前は健太。感情の波に翻弄される人生を送ってきた。


怒りは火山のように爆発し、悲しみは海のように私を飲み込む。喜びさえも、時に制御不能な興奮となって周囲を困らせた。そんな私は、職場でも友人関係でも常に問題児だった。心の奥では、ただ「普通」に感情を扱える人になりたいと願っていた。


「また君か。今回は何があったんだ?」

上司の疲れた声が耳に響く。またしても取引先で感情が爆発してしまったのだ。


「すみません...」

謝罪の言葉しか出てこない。これが何度目だろう。


その夜、雨の降る公園のベンチで頭を抱えていた時だった。不思議な存在に気づいたのは。


彼女は雨に濡れることなく、静かに私の隣に座っていた。目も鼻も口もない、つるんとした顔。普通なら恐怖を感じるはずなのに、不思議と心が落ち着いた。


「あなたは...誰?」


返事はない。ただ、小さな手が私の方へと伸びてきた。


「ユイ...」

頭の中に直接響く声。彼女の名前だった。


その日から、ユイは私の生活に静かに溶け込んできた。言葉を交わすことはほとんどないのに、彼女がそばにいると不思議と心が穏やかになる。感情の嵐が、少しずつ静まっていくのを感じた。


「ユイ、君は一体何者なの?」ある日、私は勇気を出して尋ねた。


『私はノッペラボウ。感情を読み、整える者』

彼女の声が再び私の心に響く。


「どうして僕にそんなことを?」


ユイはゆっくりと手を差し出した。その指先が光り、私の胸に触れる。瞬間、温かな静寂が私の中に流れ込んだ。言葉にできない安らぎ。まるで彼女の一部が私の中に宿ったかのようだった。


『あなたの中に、私の力を。感情を制御する助けに』


それからの私は変わった。怒りに任せて叫ぶこともなくなり、悲しみに溺れる夜も減った。仕事でも、人間関係でも、少しずつ上手くいくようになった。


それは私が変わったのではない。ユイが私の中にいるからだ。彼女の存在が、私の感情を支えていた。


「ユイ、君がいなければ、僕はまだあの頃のままだった」

公園のベンチで、私は告白した。


「君と一緒にいたい。言葉はいらない。表情もいらない。ただ、君がそばにいてくれれば、僕は僕でいられる」


ユイは静かに私の左手を取り、薬指に触れた。指先から温かな光が灯る。


それが彼女なりのプロポーズの返事だった。


今、私たちは小さなアパートで静かな日々を過ごしている。朝起きると、ユイは窓辺に立ち、光を浴びている。目も鼻も口もない顔だけど、私には彼女の「笑顔」が見える。


かつての私なら、この幸せに涙が止まらなかっただろう。でも今は、穏やかな喜びとして心に広がるだけだ。


これが愛なのだと思う。言葉や表情を超えた、魂と魂の繋がり。


ユイが私にくれた最高の贈り物—感情の波を受け入れる力と、共に生きる喜び。


私の中の彼女の輝きは、これからもずっと私を導いてくれるだろう。

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