第3話:第一歩
名前をあげた子供は不死鳥狩りついてくる気満々なようで、私が持っていた荷物を勝手に持っている。
子供が持つには少し重いはずだが、軽々持っているのをみると、男の子なのは間違いなさそうだ。
とは言え、治りかけとはいえ怪我人に重い物を持たせるのは気が引けた。しかし。
「荷物?僕が持つよ。役に立ちたいんだ」
と半ば無理矢理持っていかれたのだ。
ムリをしているわけではないようなので放置しているが、今時の子供は皆こうなのだろうか。
恐らくキャルロと同じくらいの年齢であろう彼をこっそりと観察する。
やはり妹と同じ色だ。嫌でも思い出してしまう。
先程、無意識に頭を撫でてしまった。
しかし、こうして彼と仲良くなってもいずれ別れは来てしまうのだ。そう考えると、どうしても仲のいい人を作るのに恐怖を感じてしまう。
…ダメだ、嫌な方向に思考が向いてしまっている。
こうなったらしばらくは戻らない。いるかも分からない不死鳥にイライラをぶつけてしまおうか。
「そういえば、レベッカは何の為にこんな山奥に来たの?」
目的も知らないのについてきていたのか、と思うと少し心配になるが、ウィルモットが決めた事だ。嫌になったら勝手に離れていくだろう。
「この山に出る不死鳥の素材を取りに来たのよ。薬を作るためにね」
「あぁ。そんな噂あったね…。どんな薬なの?」
ウィルモットの質問に答えるか迷ったその一瞬。
視界の端に妙な光がよぎった。
今は朝方、太陽より明るい物がこんな森の奥にあるとは思えない。
「ん?どうかしたの」
「静かに」
気づいていないウィルモットの口を手で塞ぐ。
光った方へ足音を立てないようコッソリと向かう。
怪しい物は調べるにつきるのだ。
辺りを見渡す限りは何もないが、道にほんのわずかに光る粉のようなものが落ちている。
指ですくってみると、ゆっくりと輝きを失っているようだ。何かに付着していたもので、光源ではない事が分かる。
さっき光って見えたものから落ちたのだろう。
「この森で光っている生物っていたかしら」
「え?いやぁ、いないと思うよ」
「虫じゃあるまいしね」
しかし、確かに光っているものが実在していると分かったのなら、追いかけてみるべきだろう。
ウィルモットに静かにしていろと指示を出してから粉が落ちている道を辿っていく。
どんどんと奥深くに、人間の手が入っていない様な場所まで来てしまった。
木々が隙間なく生えているせいで日が差さない場所が多い。気分まで暗くなりそうだ。
「…あ、レベッカ、あっちに何かあるよ」
ウィルモットが指さす先から光が差す。
少し速足で向かうと、一気に視界が開ける。
そこにあったのは今までの森が嘘のような、キラキラと輝く花畑だった。
花の種類はよくあるものばかりだが、ここまでカラフルで広い花畑を見たことがない。よく見ると、今の季節じゃ咲かないはずの花もある。
家の近くにあった花もそこにはあり、思わず摘み取ってしまった。
「レベッカ、その花好きなの?」
「……まぁ。そうね」
「そうなんだぁ」
何故か笑顔で地面に座り込み、花と戯れ始めたウィルモット。
これは長くなりそうだな、となんとはなしに空を見上げた。
先程までの憂鬱な気分がどうでも良くなりそうなほど晴れていて、青々としている。
そこに、一つの赤を見つけた。ふわふわと飛んでおり、その飛行物体が通った後がキラキラと光っている。
よく見ると蝶のようで、一匹だけではなく何十匹何百匹と森の方から花畑に飛んできていた。
一匹では分からなかったが、集団になって分かった。発光しているのはあの蝶だ。
「凄い!あんな量の蝶、初めて見たよ!」
「あの蝶が光っていたみたいね」
「え、蝶が?」
座り込んでいたウィルモットも立ち上がり、蝶を観察し始める。
そこに、後ろから一匹の蝶がフラフラと飛んできた。
「わ、鱗粉が…」
上を飛んでいく際、落ちた鱗粉が下にいたウィルモットにかかった。
キラキラと光るそれが、ウィルモットに触れた瞬間、一瞬にして消えていった。
鱗粉を払おうとウィルモットが腕を動かしたその時。
「あれ、痛くない」
ウィルモットは肩を回し、背伸びをする。
どうやら、治しきれず体に残っていた痛みが引いたようだ。
ウィルモットが跳躍し、蝶を一匹捕まえた。
勢いよく捕まえたせいで、手のひらに大量の鱗粉が付き、蝶の翅が片方千切れてしまっている。
しかし、一瞬で羽がくっつき、元の状態に戻っていた。
蝶の鱗粉というのは一度剥がれてしまうともう戻らない。
しかしこの蝶はどうだろうか。片翅はくっつき、しかもその翅には鱗粉が付き始めているではないか。
離してやると、蝶は再びフラフラと羽ばたく。そしてゆっくりとレベッカの手に止まった。
「……なるほど。不死鳥じゃなくて、不死蝶だったってことね」
「噂の不死生物は鳥じゃなくて蝶だったの…?ちょっと拍子抜けだ」
「いいじゃない。好きよ、私」
恐らくこの蝶が不死と言われた所以は蝶自体がほぼ死なないからだろう。
それならば、この蝶の体の一部を薬に利用してみようではないか。
鱗粉が触れただけでケガが治るなんて、夢のような生物を見つけてしまった。
しかし噂で留まっているのは一個体だとそこまで目立たないからだろう。こちらとしては好都合だ。
レベッカは手に止まった一匹を連れて帰る事にした。
先程ケガをさせてしまったお詫びに、家の中というこれとない安全をプレゼントするのだ。その家賃として毎日落ちるであろう鱗粉を回収させていただくが。
他の蝶と違ってこの蝶から優雅さを全く感じなかったというのもある。これから自然でやっていけるか少し不安なのだ。
「帰るわよ」
「あれ、一匹だけでいいの?」
「えぇ」
早速家に帰って実験をしたいのだ。家の座標は把握しているため、テレポートして帰る事にした。
使えると知らなかったウィルモットはこれでもかと言う程驚いていたが、魔法が得意なんだね、と自己完結していたようなので放っておいた。
これで不死の妙薬に一歩、近づけただろうか。
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