第7話




「じゃあ、まずは実地訓練での目標を決めてしまおうか」


 ユリィさんが仕切ってくれるみたいだった。楽でいいね。


「優菜はあまりやる気がなさそうな感じだけど、ダンジョンでも同じかな?」


「そうですね。できれば最初の階層でお昼寝でもしたいです」


 と、私としては冗談半分で提案したのだけど。


「お昼寝……。それもいいかもね」


 なんだか意外と好感触な? いやいや私はそれでいいというか望むところだけど、ユリィさんはダメでしょ凄い狩人になるのは約束されているのだから。


「せ、成績がすごく悪くなりますよ?」


「とはいえ、正直言って授業でダンジョンに潜ってもなぁ……。狩った魔物の素材は学園のものだし、狩人ランクに影響もないし、完全にただ働きなんだよねぇ」


「ただ働きって。授業なのだから当然なのでは?」


「それは分かるけど、やっぱり狩人として活躍しているとねぇ。ただ働き感が強調されちゃうというか……」


「あ、もう狩人として活動しているんですか」


 登録自体は15歳からできることになっているけど、よほど優秀な人間じゃないと許可が下りないとアルーが言っていたような気がする。つまりユリィさんは優秀なのだろう。……Sランクスキル持ちなんだから当たり前か。


「……優菜って私に興味がなさ過ぎじゃない?」


 ぷくー、っと頬を膨らませるユリィさんだった。ちょっと可愛いかも。


 私ってユリィさんはもっと『王子様』系のキャラだと思っていたのだけど……意外とこういう、年頃の少女っぽいところもあるんだね。


 おっと、今は興味のあるなしの話だったか。


「興味がないと言いますか……ただのクラスメイトの事情をそこまで深く知っている方がおかしくないですか?」


「いや、私に少しでも興味を持ってくれていれば、そのくらいの情報は耳にしていて当然だよ?」


「当然って」


 なんとも自信に溢れるユリィさんだった。まぁものすっごい美少女で、ものすっごいスキルを持っているのだから当たり前か。むしろ驕り高ぶった言動をしないのは好感が持てる。かもしれない。


        ◇


 まぁユリィさんとパーティーを組むという予想外の展開はあったけど。それはもう考えないようにして。


 放課後、私はいつものようにスーパーに立ち寄り、日用品や食材の買い出しをしていたのだった。なにせ両親がいないからね。こういう買い物も私がやらないといけないのだ。


 ちなみにアルーやミワの分の買い物も私の役目だ。アルーは買い物が壊滅的に下手くそなので余分なもの&無駄に高いものを買ってくるし、ミワは基本的に引きこもって仕事をしているので自分で買い物をするという発想がないのだ。


(私がいなくなったら、あの二人の生活が破綻してしまう……)


 ほんとあの二人は見た目だけなら美人なのに……と考えてしまう私だった。いや普段のミワは学生用ジャージなので見た目もかなりアレなんだけどね。


 さて。明日から実地研修でダンジョンに潜ることになるということで、今日の買い出しはちょっと多めだ。ダンジョンの中に飲食店はないから私とユリィさんのお弁当を作らなきゃいけないし、アルーとミワから『前夜祭』として夕飯を豪華にして欲しいと要求されていたからだ。


 ちなみになぜ私がユリィさんの分のお弁当まで作ることになったかというと……明日の実地研修に向けた打ち合わせの席で、ユリィさんが言ったのだ。「昼食は現地で調達すればいいよね」と。


 現地調達。

 つまりは、討伐した魔物の肉だ。


 勘弁してくれ、というのが正直な感想。私も魔物の肉を食べられないことはないけれど、ハッキリ言って魔物の肉は美味しくないのだ。飢えているならともかく、お弁当を持ち込めるならお弁当を持って行きたい。


「ユリィさんの好みは聞いてなかったけど……」


 ハーフエルフのユリィさん。食事の好みは同じエルフのアルーとミワが参考になるかなぁと思ったけど……うん、何の参考にもならない。アルーは菜食主義者に近く、ミワがガテン系だからだ。


「ここは重箱形式でいこうかな?」


 一段目はおにぎり、二段目は野菜系。三段目にお肉系。こうすれば嫌いなものを無理に食べる必要もないからね。


 私は収納魔法である空間収納ストレージを使えるので、お弁当が傷む心配もない。細かい理屈はまるで分からないけど、空間収納ストレージに突っ込んでおくと食材が傷まないのだ。


「アルーとミワ相手なら冷凍食品を使ってもいいけど……まぁ、赤の他人ユリィさんだからね。ちょっと見栄を張って、手間暇掛けておかずを作りましょうか」


 そんなことを考えながら買い物を済ませ、私はアパートに帰ったのだった。


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