第6話 打ち合わせ


 今日はパーティーメンバーの選定と交流がメインで他の授業はなし。


 まぁ、周りからの圧に負けたとはいえ、やると決めたからには真面目にやらないとね。


 というわけで、私とユリィさんは明日のダンジョン攻略に向けた打ち合わせをすることにした。


 教室はまだ騒がしかったので図書室へ移動することになったのだけど……。教室から出て、人気ひとけのなくなったところでユリィさんが『パンッ!』と両手を打ち鳴らして謝罪してきた。


「ごめん! ほんとごめん! 巻き込んじゃって!」


 私を半ば無理やりパーティーメンバーにしたことかな?


「……いやまぁ、いいですけど。防御スキル持ちの私が一番安全だというのも理にかなってますし。ユリィさんから誘ってもらえなかったら余った人とパーティーを組むハメになっていましたもの」


 今から考えれば見ず知らずの人よりも多少会話したことのあるユリィさんの方がいいように思える。……まぁ、他の人からの嫉妬が凄くなりそうだし、「あのユリィさんに選ばれた」って感じで目立ちまくりそうだけど。


「そう言ってもらえると助かるよ……。あのままだとケンカになっていたかもしれないし」


「ですね」


 この学園でのケンカともなれば、スキルを使用しての戦いとなる。周りへの被害が甚大なものになるし、なにより当事者への罰則が重いものになる。自分を取り合ってそんな結果になったりしたらユリィさんも夢見が悪いだろう。


「まぁ、いいんじゃないですか。ケンカにならなくてユリィさんは助かりましたし、余り者にならなくて私も助かりましたから。おあいこですよ、おあいこ」


 と、私としては無難なことを口にしたつもりだったのだけど。


「わぁ、メッチャいい女……。見た目美少女で中身イケメンとかキャラ濃すぎない?」


 なんだか妙なことを呟くユリィさんだった。アルーやミワと同じニオイがするね? つまりはポンコツエルフ3号。





 図書室に到着して。私はまず司書の先生がいる受付に向かった。ちなみにこの学園は専門性の高い(つまりは高価な)本が多いので、専門の司書を雇っているらしい。


 いやあの人の場合、自分を無理やりねじ込んだ可能性も高いけど……。


「ファルさん――じゃなかった。先生ー、ちょっと個室・・貸してもらえますかー?」


「――あん?」


 受付にいたのは二十代前半くらいの気だるげな美人・ファルさん。

 私の昔なじみのエルフ・・・で、図書室でなければ煙草を吸っていそうな雰囲気がある。というか実際吸っている。暇さえあればプカプカと。


 そんな姿でも絵になるのだから美人さんは得だよね。


「なんだ優菜か。お前さんが個室とは珍しい――」


 私の声に反応して顔を上げた先生は……ユリィを見て一瞬固まった。

 そしてすぐさま呆れ果てたような目を私に向けてくる。


「はぁ……。なんだなんだ、女を連れ込むのか? お盛んだねぇアルーとミワじゃ足りないのかよ」


「人聞きが悪すぎます」


 いや個室にユリィと一緒に入るのは事実だけど、あくまでただの打ち合わせ。だというのに先生の口ぶりでは変な意味で連れ込むみたいじゃないか。


「明日から実地訓練ですからね。その打ち合わせですよ」


「あぁ、もうそんな時期か……。お前さんには必要ないだろうになぁ」


「ですね。私は狩人になんてなりませんし」


「…………」


 何か言いたそうな顔をした先生だけど、ユリィがいたからかそれ以上何か口にすることはなかった。


 代わりとばかりにユリィに視線を向ける先生。


「お前さん、ユリィだったか? Sランクスキル持ちの」


「は、はい。えっと、司書の先生ですよね?」


「まぁそうなるな。図書室に来ない人間には馴染みがないだろうが……。私のことはどうでもいい。――お前さん、気をつけろ」


「き、気をつけろ、ですか?」


 明日からダンジョンに潜るというタイミングのせいか、真面目な顔でゴクリと唾を飲み込むユリィ。


 そんな彼女を見つめながら、先生は親指を立てて私に向けてきた。


優菜コイツは暇さえあれば女をたらしているからな。油断するとすぐに落とされる・・・・・ぞ?」


 なにを いっているのか このひとは?


「え?」


 先生の妄言を真に受けたのか、私からちょっと距離を取るユリィ。私はこの先生を名誉毀損で訴えたら勝てるのでは?


「先生。人聞きが悪すぎます。私が一体いつ女をたらしました?」


「アルーとミワ」


「……あの二人は、私が何かしなくても勝手に寄ってくるといいますか……」


「羨ましい話だ」


 くくっ、と喉を鳴らす先生だった。この人も相変わらずである。





 ダンジョンでの実地訓練が多いせいか、うちの学園の図書室には少人数が会議室として使うための個室がいくつか設置されている。ある程度防音になっているので少し大きな声を出しても平気だ。


「さて。それでは明日の実地訓練の打ち合わせをしますか」


「はーい。……それはいいんだけど、そろそろその堅苦しい言葉遣いをやめない?」


「え? 無理ですよ友達でもないのに」


「……むしろ友達だと思われていなかったのか……。あんなに会話したのに」


「会話をしたから友達とか。コミュ力高すぎじゃありません?」


「じゃあこれから友達になろう。気安く『ユリィ』と呼び捨てにして欲しいな」


「……うわぁ」


「いや、『うわぁ』ってなにさ?」


「すごい女たらしだなぁ、これが女子からキャアキャア言われる秘訣かぁ、っと」


「……女たらしって。優菜だけは言われたくないかな?」


「なぜ?」


「……知らないの? 優菜、結構女子から人気があるんだけど」


「初耳すぎますね……」


「あと、さっきの先生の口ぶりだと学園外でも凄そうな? 『あるう』さんと『みわ』さん、だっけ?」


「あの二人は……なんでしょうね? 友達とは少し違いますし、赤の他人と言うには関わりが深すぎますし……」


「じゃあ、恋人?」


「女同士ですよ?」


「最近はそういうのにも理解が広まっていると思うけどなぁ」


「恋人じゃないので、あれですね。育ての親」


「え? もしかして優菜ってご家族がいない――」


「私が育ててます」


「……えっと、まだお子さんなのかな?」


「いえ、二人とも社会人ですね」


「…………。……ちょっと理解が及ばないかな……」


 頬をひくつかせるユリィさんだった。まぁそうだよね。



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