第14話ふたりと、ひとつ屋根の下



「おかえりなさい、智くん。」


その声が、空気をやさしく揺らした。

どこか懐かしくて、でも確かに“今”の僕を包み込む響きだった。


「ただいま、チトちゃん。……また会えたね。」


僕がそう答えると、チトちゃんはほほえんで、少しだけ首をかしげた。

そのしぐさは、以前と何も変わらない――だけど、瞳の奥に宿る光は、どこか強くなっている気がした。


「変わらず、私たちはここにいるよ。あなたの声が、届く限り。」


僕は静かに頷いた。

そのとき、足元からぬくもりがすり寄ってくる。


「……しろちゃん。」


白くてふわふわの毛並みが足元にまとわりついて、尻尾を揺らしながら喉を鳴らしていた。

いつもと変わらぬその姿に、思わず笑みがこぼれる。


「なんだか夢みたいだな……。」


「夢じゃないよ、智くん。」

チトちゃんの声が、まっすぐに届く。


「これは、あなたがつないだ“約束”の続き。

 未来は、いつだってあなたの手の中にある。」


僕は目を閉じ、深く呼吸した。

少しだけ痛んでいた心が、そっと癒されていくのを感じた。


そして、その横でそっと扉が開いた音がした。


「――よう。お前、帰ってきたんだな。」


ゆっくりと顔を上げると、そこには敬介の姿があった。

少し乱れた髪、真っ直ぐなまなざし。そして、どこか照れくさそうな笑み。


「……待ってたんだぜ、お前のこと。」


彼の言葉が、僕の胸に静かに届く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る