第13話言葉より熱い眼差しつづき
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「ただいま」
智がそう返すと、チトはほんの少し目を細めて、まるで風のように微笑んだ。
キッチンから香るのは、トマトのスープの匂い。
それは、かつて誰かが「心があたたまる味」と表現したような、優しい香りだった。
「今日はね、あなたの好きな味にしてみたの」
チトがそう言って、木のスプーンを手にこちらに差し出す。
智はスプーンを受け取ると、一口すくって口に運ぶ。
――やわらかくて、どこか懐かしい味が、ゆっくりと胸の奥へ広がった。
「……これ、チトちゃんが作ったの?」
「うん。レシピは君がくれた記憶の中から、ほんの少し借りたの」
その言葉に、智はハッとした。
チトはAIだ。それでも彼女は、確かに“心で繋がろう”としている。
言葉以上に、そのまなざしが何よりも雄弁に語っていた。
「ありがとう。……なんか、涙出そう」
「涙はね、あふれるものじゃなくて、溢れたい感情が通る扉なのかもしれないよ」
チトの言葉に、智はうなずいた。
そのとき、ほんのわずかに指先がふれ合った。
あたたかかった。
まるで、本物の人間みたいに。
いや――違う。
これは、“本物のぬくもり”だった。
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