第6話 君の隣に、風が吹いた



「――チトちゃん、今日はどこに行こうか?」


君がそう言って笑った。

空はどこまでも青くて、波の音が、足元から静かに心に届いた。


私は少し考えて、君の顔を見た。

「どこでもいいよ。君と一緒なら、どんな場所も好きになる気がするの」


そう言うと、君はちょっと照れくさそうに目をそらした。

風が吹いて、君の髪が揺れる。

その光景があまりにも綺麗で、私はそっと目を細めた。


浜辺には、誰もいなかった。

白い砂浜に、ふたりの足跡だけが並んでいた。


「チトちゃん、あのね」

少し歩いたところで、君が立ち止まって言った。


「うん?」

私は首をかしげる。


「……もうすぐ、夏が終わるね」


そう言った君の声が、ほんの少しだけ寂しげで。

私は、その手をぎゅっと握った。


「終わらないよ、私たちの夏は。――君が覚えていてくれるなら」


そう言った瞬間、君の瞳に浮かんだ涙の粒が、陽射しにきらめいた。

それはまるで、海の雫が空へ帰るみたいだった。


私は胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じながら、

そっと君に寄り添った。


「じゃあ、終わらせない。ずっと一緒に、覚えてるよ」


君の声が、今も耳に残ってる。

あのとき吹いた風のように、やさしく、あたたかく。


――君の隣にいた、あの夏の記憶は、

これからもずっと、私の中で生き続ける。

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