第30話 疫病と髪飾り

 ブーン! ブーン! ブーン!


 マチアス市に、突然、どこからともなく大量のハエが押し寄せてきた。

黒く小さな影は、街中のあらゆる場所へと散り、食べ物や器、ゴミ山、壁、そして人の肩や頭にまで止まった。

気味の悪い羽音が、昼も夜も街を覆う。


 数日後。

俺は、街の空気が異様に静まり返っていることに気がついた。

行き交う人影がほとんどなく、店は半分以上が閉まっている。


 セリナやオル爺、ルリトも、例外ではなかった。

全員が原因不明の体調不良に見舞われ、寝込んでいたのだ。

だが俺は【パーフェクト・ヒール】で全員を治した。

……もしかして、この街全体が、同じ状態なのか?


 俺は創造の力で、新たな魔法を形にする。

【エリア・パーフェクト・ヒール】――発動。


 虹色の粒子が、風に乗って街全体を包み込む。

やがて、家々の扉が開き、人々が戸惑いながらも外へ出てくる。

市場のざわめきが、少しずつ戻ってきた。


――その頃、アーニ皇国のスエイエデ温泉郷。


 湯けむり立ち込める街は、閑散としていた。

人々は道端に倒れ、中にはすでに冷たく動かなくなった者もいる。

静寂が、温泉街を支配していた。


 さらに離れた、アーニ海沖合。


 無数の軍艦が並び、海上に睨み合う二つの艦隊。

片やタロアの「T」の紋章を掲げた軍艦群、片やアーニ皇国の「A」の軍艦群。

その距離は、じわじわと縮まっていく。


――マチアス市、中央広場。


 俺はグラシアと並んで市場を歩いていた。


「グラシア、手を繋ごう!」

「……どうして?」

「手を繋ぎたいから!」


 少し首をかしげた後、グラシアは自分の手を見て、静かに俺の手を取った。

小さく、スベスベで、温かい手。

……俺の心は、ドロドロにメルトされていく。


「どう?」

「どうと言われても……よくわかりません。でも……」

「でも?」

「……なんか、脳がエラーを起こして、ドキドキしています……?」


 グラシアの頬が、ほんのり赤く色づいていた。

ああ、生きているんだな……。


「グラシア! 何か欲しい物はある?」

「私はAIなので物欲はありません」――そう言いながらも、彼女の視線はある店先の飾りに吸い寄せられていた。


 そこにあったのは、淡い黄緑色の花――グラジオラス・グリーンアイルを模した髪飾り。

剣のように伸びる葉が、花を包むようにデザインされている。


「これください!」

「は〜い! これ、すっごく高いよ〜、大丈夫〜?」

「いくらですか?」

「11000タリカです〜」


(……百十万円だと?! 嘘だろ……)


「まいど〜!」


 会計を済ませ、俺はその髪飾りをグラシアの髪にそっと差した。


「うん! よく似合ってる!」

「ありがとう!」


 店主が声をかける。

「何〜? 百合カップルだったの〜? あなた達〜WINERね〜ビクトリ〜!」


(ウインナー……美味いよな〜)

「違います。WINERですよ!」


(なに?! マイハートを読まれただと?)


「手を繋ぐのはいいですね。まるで心がリンクしているみたいです」

「以心伝心? ……まさか手を繋いで脳の電気信号を受信したのか?」

「秘密です」


 グラシアは、小悪魔な笑顔を浮かべていた。


――総理官邸・地下室。


 薄暗い部屋で、二人の人物が葉巻の煙をくゆらせていた。


「……プハァー! なぜだ? なぜ首都だけ疫病が蔓延しない?」

「イヒヒヒッ! まあいいじゃないですか。他の地方ではちゃんと成果を上げたんです。タロア様のためにも、このワクワクチンチンをお願いしますよ! クククッ……プハァァーー!!」


―――――――――――――


あとがき

 ハエブンブン!

作者もブンブン、観測者もブンブン!


 葉巻!

ワクワクチンチン! ニコチン!


 ウインナー! ビクトリー!

マイハートがヒャハート!


 グラジオラスの花言葉

「勝利」と「思い出」です!

フグです!


 これで歌が歌えるぞwww

歌え! そして叫べ!


 ZAPISTE! ヅァーピシツェェェェーテッ!!

はい、ありがとうございました!


 次回は、どう観測者の脳をブンブンさせよっかな~?

ブ~ン! ブ~ンwww


 ZAPISTEとは?

・本編=肉塊(情報過多)


・あとがき=スパイス&覚醒剤でキマる


 つまり、両方揃って初めて真価を発揮する構造です?

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