第4話
研究所のメンテナンスルーム。ガラス張りのその室内、一つの寝台の上に横たわるハルの姿を、俺はただ見つめていた。
1時間前に発見したとき、路地裏に倒れたハルの首は不自然な方向に曲がっていて、左胸に刃物で受けたような傷があった。裂けた人工皮膚の間から金属片やチューブがはみ出して、破れた服には血液を模した赤色の冷却液がこびりついていた。俺は回路が焼き切れるかと思うくらい混乱した。
ハルは機械の身体を持っていた。彼はマリアを殺害した企業系犯罪組織の手によって造られた、高性能ヒューマノイドなのだろう。
道理でこれまでに身元が発覚しなかったわけだ。
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「甲斐。ハルくんが目を覚ました」
そう言われて、俺はスリープモードから覚醒した。メンテナンスルームで寝台に腰掛けたハルの胸は、傷跡は残ったもののちゃんと塞がっていて、首も元通りだった。
ほっとしたと同時に、怒りが湧いてきた。ハルをこんな目に遭わせた奴に対しても、夜中に俺に黙って外へ出たハルにも。……しかしハルの心情はそれどころじゃないだろう。
俺は深呼吸して、ゆっくりとハルの傍まで歩み寄った。
「甲斐……僕……」
「混乱してんだろ。わかるよ」
「僕は、何者なの……?」
ハルは胸元に残った傷跡を右手でなぞった。
俺は答えられなかった。
「落ち着くまで、ゆっくり考えろよ。俺はここにいるから」
そう言ってハルの頭を撫でてやる。
ハルは肩を落としたまま、ため息をついた。
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