第4話




 研究所のメンテナンスルーム。ガラス張りのその室内、一つの寝台の上に横たわるハルの姿を、俺はただ見つめていた。


 1時間前に発見したとき、路地裏に倒れたハルの首は不自然な方向に曲がっていて、左胸に刃物で受けたような傷があった。裂けた人工皮膚の間から金属片やチューブがはみ出して、破れた服には血液を模した赤色の冷却液がこびりついていた。俺は回路が焼き切れるかと思うくらい混乱した。


 ハルは機械の身体を持っていた。彼はマリアを殺害した企業系犯罪組織の手によって造られた、高性能ヒューマノイドなのだろう。

 道理でこれまでに身元が発覚しなかったわけだ。



 **



「甲斐。ハルくんが目を覚ました」


 そう言われて、俺はスリープモードから覚醒した。メンテナンスルームで寝台に腰掛けたハルの胸は、傷跡は残ったもののちゃんと塞がっていて、首も元通りだった。


 ほっとしたと同時に、怒りが湧いてきた。ハルをこんな目に遭わせた奴に対しても、夜中に俺に黙って外へ出たハルにも。……しかしハルの心情はそれどころじゃないだろう。

 俺は深呼吸して、ゆっくりとハルの傍まで歩み寄った。


「甲斐……僕……」


「混乱してんだろ。わかるよ」


「僕は、何者なの……?」


 ハルは胸元に残った傷跡を右手でなぞった。


 俺は答えられなかった。


「落ち着くまで、ゆっくり考えろよ。俺はここにいるから」


 そう言ってハルの頭を撫でてやる。

 ハルは肩を落としたまま、ため息をついた。

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