第3話





 その路地裏に足を踏み入れたとき、空気は妙に静かだった。血の匂いが風に溶けて、目の前には人が何人も倒れている。


 その真ん中に、ひとりだけ立っている男がいた。


「やあ、きみか。よく会うね」


 あの男だった。焦茶の髪の、甲斐に似た目の男。右手に、大きなサバイバルナイフをだらりとぶら下げている。そこには生々しく赤黒い血が滴っていた。


「『心』……どこにもないんだ。ヒトのどこを切っても出てこない。一緒に探してくれないか」


「ひっ……」


 喉が変な音を立てた。逃げ出したかったけれど脚が動かない。

 男がナイフを振り上げたのが、妙にゆっくりと見えた。


 ガツン、と音がして、僕の左胸にナイフが突き立った。


「……なに?」


 身体に何かがめり込んだような感触はあったけれど、痛くも痒くもない。


 胸にはナイフが刺さった傷がある。


 ……痛くない。

 そこにあったのは、金属と、ゴムと、機械。

 僕の中、こんなふうだったの?

 僕って……なんなの?


「……え?」


 僕の頭の上から、男の声が降ってきた。


「なーんだ、きみ、ロボットだったのか。じゃあ、『心』持ってないよね。ばいばい」


 首元に衝撃。

 ぐるりと世界が回って、暗転した。


「義体に28%の損傷。直ちにメンテナンスを受けてください」


 頭の中に、繰り返し、そんな言葉が無機質に響いていた。



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