第四回 小聿さまの心を取り戻しちゃおうの会

注意)こちらは本編「いろどりの追憶」(https://kakuyomu.jp/works/16818622174393672312)の外伝です。本編第四部「はじまりの刻・源小聿として生きる(二)」以降のお話ですのでご注意ください。

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「それでは、第四回小聿しょういつさまの心を取り戻しちゃおうの会を始める。今日は、厨衆くりやしゅうからの報告じゃ」


 今日も今日とて、一条源家・家令の蕗迅ろじんの朗々とした声でその会ははじまる。

 どうやら、タイトルイメージは筆文字で紫らしいので、聞いていた者たちの頭の中ではそれで表示――――


 ――――されない……やっぱり丸文字ピンクになってしまう……


 と思った者はきっと蕗隼ろじゅんだけではないだろう。

 

 指名をされて下座の方に座っていた厨衆のうちの一人、一条源家の厨長が立ち上がる。


「はい。ここ二ヶ月近く、兎にも角にも、小聿若君の食が細いと言うことでどのようなものならば喜んでお召し上がりいただけるのだろうかと試行錯誤しておりました」


 小聿はとにかく食が細い。

 一つ下の従弟の小慎しょうしんよりも食べない。そのことが、一同にとって心配の種の一つであった。


「はじめは小慎若君がお好きなものならば歳も変わらぬ小聿若君もお気に召すかと思い、積極的にメニューに加えました。小慎さまがお好きなのは、ハンバーグ、フライドチキン、フライドポテト、ミートボール、それから、ピザです」

 

 これらの料理は聖国ならではのものではなく、鏡合わせの大陸の料理だという。

 限定的ではあるが交易がある国から伝わるこうした料理は、一条源家のいま一人の若君である小慎の心を鷲掴みにした。小慎の心をとらえる料理ならば、きっと小聿の心をとらえるだろうと厨衆は考えたようだった。


「あー……立て続けに小慎が大喜びのメニューだったものなぁ。とても美味しいけれど立て続けに来ると、大人の胃にはくる……」


 一条源家の若殿である芳崇ほうすうが言うと、首座に座った当主の彩芝さいしが渋い顔をした。


「まったくじゃ……。ああした料理は米酒とどうもあわぬ」


 厨衆は揃って頭を垂れる。


「申し訳ありません。とにかく、小聿若君が気に入られたくさんお召しになるものを知りたかったもので……」

「よい。それでどうだったのだ?儂にはいまひとつのように見えたが」


 おっしゃる通りですと彩芝の言葉に厨長は頷く。


「いつもと同じ程度。ものによっては、いつもよりお召し上がりになりませんでした……。お食事の後、水鏡殿すいきょうでんに参りお話を伺ったところ、とっても美味しかったよとおっしゃっていましたが……お召し上がりになった量を考えると小慎さまのようにお気に入りになったわけではないと判断いたしました」


 ふむふむと一同頷く。


「次に試したのは、牛肉の鉄板焼き、鶏肉の焜炉焼き、豚の角煮、羊肉の串焼きです。どの種類の肉がお好きなのかをつきとめようと思いまして」

「どれも美味しかったわ。やはりうちの牛肉の鉄板焼きは最高よね。ねぇ、お姉さま」


 思い出してか彩芝の次女である靜子せいしが言う。同意を求められて姉である湘子しょうしはそうじゃのと微笑んだ。


「ですが……どれも小慎さまほどはお召し上がりになりませんでした。やはり量は少なく……」


 あー……と一同残念そうな顔をする。


「お肉はあまりなのかしら?」


 彩芝の妻、一条源家の太君たいくんである葵子きしが言うと厨長は頷いた。


「我々もそれを思いまして、次に魚介料理を試すことにしました。刺身、寿司、海鮮丼、天ぷら、塩焼き、焜炉焼き、煮魚。それから、ソテー、スープ、網焼き……昼餉に、ペスカトーレや海鮮焼きそば、海鮮炒飯などもお出ししました」

「え、お昼にペスカトーレ?いいなぁ、私や父上が皇宮で仕事をしている間に、靜子はそんな美味しいそうなものを食べていたのかい?」


 芳崇が羨ましそうに言うと、靜子は美味しかったわと笑う。


「こちらは、お肉よりはお召し上がりになったように思います。どうやらお肉よりも海鮮の方がお好きなようです。ですが、量は五歳児の量よりもずっと少ないです」

「パスタは大変お上品に食べていたのが印象的でしたが……やはり量は少なかったのね」


 葵子の言葉に厨長は頷いた。


「八つ時にいろいろとおやつを用意してお出ししましたが、小慎さまよりはやはり食べませんでした。一昨日は、幼稚園からお戻りになった小慎さまと一緒に果物のゼリーをお召し上がりになりましたが、半分は小慎さまに譲っておいででした」

「まぁ、小慎ったら!小聿どのの分を食べてはだめよとあれほど言ったのに!」

 

 厨長の報告に小慎の母親である靜子が声を上げる。

 明日、もう一度注意しなきゃと言う彼女に一同くすくす笑う。


「それで……小聿がよく食べるものは見つかったのか」


 小聿の母である湘子が問うと厨長は、その顔に笑顔を浮かべて頷いた。


「ええ。その後も色々試した結果、お出しした分を全て召し上がられたものがございました」


 おおぉと一同声をあげ、それはなんだ?と身を乗り出す。

 厨長は得意げに胸を張った。


「豆腐でございます」

『豆腐?』


 声を揃えて繰り返す一同に、厨衆が揃って頷く。


「そうです。豆腐料理は全てお召し上がりになるのです。小慎さまと同じ量を残すことなくお召し上がりになります」


 そう言って厨長は下座に控える厨衆を見る。厨衆は揃って頷いた。


「湯豆腐、揚げ出し豆腐、餡掛け豆腐、白和、冷奴……明日もどうやら暑いようなので、湯葉をお出しする予定です」

「豆腐……」

「はい、豆腐です」


 彩芝の呟きに厨長は力強く返事をする。

 彼としては、ついに小聿が人並みに食べるものを見つけてさぞや嬉しかったのだろう。やり遂げたような表情をしていた。


「我が息子ながら好みが地味じゃの……」

「地味って姉上さまっ」


 思わずと言った風情でつぶやく湘子を靜子が窘める。


「ま、まぁ……大豆タンパク質が取れていいんですかね?」

「そう……じゃの」


 芳崇の言葉になんともいえない顔で彩芝は頷く。


「あとは、野菜全般お好きなようです。野菜はよくお召し上がりになっておいでです」

「菜食主義者?」

「いえ、肉も魚もお召しがりになるので、菜食主義者と言うわけではなさそうです。ただ、よりあっさりしたものを好まれるようで。お飲み物も、果実水よりもお茶やお白湯の方が好まれるようです」

「味覚も大人なのかー。まあ、我々とは気が合いそうではありますね。小慎に合わせすぎると、我々の胃がもたないので助かるっちゃ助かるかな」

 

 芳崇がそういうと、一同確かに……と頷く。

 

紫苑しえん、何か気になることはあるかの?」


 本日もゲストとしてやってきていた小聿の元傅役・とく紫苑しえんに彩芝は話を振る。

 尋ねられた紫苑はしばし考え、あ……と声を上げる。


「これは、好きなものではなく、逆に絶対に出さないであげて欲しいものなのですが……」

「小聿若君の苦手なものでございますか?こちらにおいでになった際、若君にお尋ね申し上げましたが特にないとおっしゃっておいででしたが」

「そうですね。小慎どのは野菜全般嫌がるけれど、小聿どのはきちんとお野菜も食べるし、量は少ないけれど満遍なくお召し上がりになっていたような」


 不思議そうな顔で厨長と葵子は言う。


「あー……うん、ほら……性格的に遠慮して言わないと思いませんか?」


 言われて厨衆はハッとしたような顔をする。そして、一同顔を青ざめさせる。


「どうしましょう。すでにお出ししてしまったかもしれません!それは一体なんですか!?」

「……かぼちゃ」

「かぼちゃ?」


 紫苑は神妙な面持ちで頷いた。


「そう、かぼちゃ。かぼちゃ料理は絶対ダメ。たぶん、無理をして食べると思うけどその晩、悪夢にうなされる可能性大」

「ええぇぇ。そんなにお嫌いなのですか?」

「嫌いというか……トラウマかな。俺のせいで……」


 顔を歪めて紫苑は言う。


「一体なぜ?かぼちゃは以前皇宮で共に食事をした時、食べていたように思うが?」


 首を傾げて湘子が言うと、ええ、元々はお好きだったと思います……と力なく紫苑は言う。

 そうして、紫苑はかいつまんで小聿がかぼちゃがトラウマになった話――――大切な友であった殿上童でんじょうわらべ朔侑さくゆうと最後に一緒に食べたおやつがかぼちゃ餡の饅頭で、その時に、朔侑に身代わりを頼んだこと、そして、彼に起こった悲劇を語った。


「おそらく、かぼちゃを見たら思い出すかと。朔侑のことやその後に起こったことを」

『…………』

 

 壮絶な話に一同は絶句する。

 その後、厨衆が小聿が一条に降りてから出したメニューの記録を急いで確認し、かぼちゃは出していないことがわかった。

 一同安堵のため息を漏らす。

 

「すみません、かぼちゃ美味しいのに……」

「い、いや……そんなこと誰も予見できまいて……。よし、今後一条ではかぼちゃは取り扱わぬように」

『承知いたしました』


 彩芝の命に厨衆は揖礼をする。

 

「以上が厨衆からのご報告でございます。今後も、小聿若君が喜んでお召し上がりになるものを模索、開発して参ります」

「うむ、ご苦労。今後も頼んだぞ」

『はい』


 彩芝のすぐそばに控えていた蕗迅がぐるりと一同を見回し、頷く。


「他の皆も、今後も小聿若君のことをようよう見守るように。それでは、第四回小聿さまの心を取り戻しちゃおうの会を終わります」


 いつものように蕗迅の言葉で今日の会も締めくくられたのだった。

 

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