第33話 冒険者のジレンマ

 そうしてエルフ達は帰っていった。


 おれとしてはとりあえず助かったのかもしれない。


 貴族達が攻略に失敗したとなれば、彼らはまた攻めてくるだろうが、その頃にはダンジョンがまた成長している。


 先送りにできて良かった。


 しかし貴族がエルフ達に大金を渡してまで、攻略にこだわる事情とやらが気になる。


 考えられるのは、お嬢様の家の風習で、ダンジョンを攻略しなきゃならないとかか? いや、それなら金で買うというのもどうかと思うし……。


 うーむ。わからん。


 事情は話せないと言っていたな。話せないことというのはどういうことだ? 脅されているとか? 国からの密命を受けたとか?


 実は彼女は王族で、継承権争いのために来たとかなら面白いな。お嬢様は王女様だった、みたいな。


 そんなことを考えていたら、お嬢様達が動き出した。


 


 彼らの力は単純。

 数である。


 人数が20人ぐらいいて、その一人一人が中々に強く、連携もバッチリ。


 つまり単純に強い。


 まず4階層ではウチ自慢のゴブリン軍団とぶつかったが、これを普通に撃破。


 まあゴブリン軍団の上位互換みたいな奴らだからな。当たり前だ。ミニゴーレムには少し時間がかかっていたようだが、それも危なげなく倒していた。


 続く5階層でも、何人かがバネ罠などに引っかかり、さらにバケツで水をかけたりもしたが、すかさず味方にカバーに入られたことで、特に決定打を与えられることなく、攻略されてしまった。


 ボス部屋も数の暴力で順当に攻略。


 そこで6階層では、ゴブリン魔導士などによる遠距離攻撃を試してみた。


 しかしそれも向こうの魔法で相殺され、その隙に味方の騎士が魔法が飛び交う中を飛び込んできて、やられてしまった。


 すごい勇気だ。頭おかしいな。


 その他にも複数方向から攻撃してみたりもしたが、数の前では無力。


 そこでおれは悟った。


 ゴブリンじゃどうしようもないと。


 おれ達にも自爆魔法が使えたら良いのだが、ゴブリン魔導士に聞いたところ使えないとのことだった。


 つまり彼らを止めるには、彼ら以上の質を持った物量が必要。


 やはり勝負は10階層のボス部屋だ。


 そこなら6000ポイント使える。ミニゴーレム20体。人数比的に彼らは大体、1対1でミニゴーレムと戦うことになる。これまで見たところ、そこまでの強さは彼らにはない。攻撃力が足りないのだ。


 それで終わりである。


 10階層までは制限ポイントが平均して2200程しかないので、矢の罠(上)や、天井からのスライム、ミニゴーレムなどを使って消耗させていくことにした。




 7階層に降りてくると、彼らはまず網網の罠を目にすることになる。7階層の地形は普通だったが、網網の罠のお陰でこれまでとは一風変わった景色になっているのだ。


 といっても、彼らは盾を持っていたので、盾と魔法をうまく使いつつ、時間をかけて7階層を突破してきた。


 そしてそのお陰で網網の罠の問題点も明らかになった。


 ゴブリン側からも間合いが詰めづらくなっているところである。そのせいで今回、兵士達はゆっくりと態勢を整えながら進むことができていたように思える。


 とはいえ改善案も思いつかないがな。どうするか……。



 8階層の地形はとても良い地形だった。

 階段を降りてくるとすぐに左右2つの道に大きく分かれるのだ。しかも次の階層の階段には右の道からしか行くことができない。すごく強いが、8層なので制限ポイントが2250なのが悔やまれる。これじゃできることがあまりに少ない。


 絶対通る右の道に罠を一杯にして、後はミニゴーレムを3体ほど召喚したら、もう制限ポイントギリギリである。仕方ないので、この階層は一点集中の階層にすることにした。


 最初に絶対通る右の道を徹底的に罠で固め、さらにミニゴーレム3体で固める。最強の一点集中だ。無理やりミニゴーレムの横を抜けたら、罠に引っかかる仕組みである。あのミディアムヘアの女のような、圧倒的な力がない相手なら、中々良いものができたと思う。


 案の定、貴族軍は結構苦戦していて、3体のミニゴーレムを少しずつ少しずつ削り、突破してきた。


 下の階層で地形ガチャでもやろうかな……。



 9階層の地形はクソだったので、初めて地形リセットを試した。何と階段を降りてきて、すぐ隣に次の階層への階段があったのだ。


 変更後の地形も、次の階層への階段が近く、そこまで良いものではなかったが、まあマシだろう。


 結果としては、9階層までで、彼らは結構消耗したように思える。時間をかけて攻略するものだから、見てるだけのおれでさえ疲れたもんな。



 そしてボス部屋。10階層の売りは徘徊するミニゴーレムである。普通の階層なら普通にスルーされて、次の階層に行かれるだけだが10階層は違う。ボス部屋の外でミニゴーレム6体に一斉に襲わせることで、彼らはろくに休憩することなく、ボス部屋に入ってきた。


 そして、悠然と並ぶミニゴーレム10体と対峙することとなる。


「マジか」

「全員落ち着け! いいか。2人1組で一体のミニゴーレムに当たれ!」


 隊長がそう指示を出し、上手く10体のゴーレムと彼らは戦い始める。

 

 その時だった。ゴーレムの後ろから、火魔法が飛んできて、兵士達に炸裂した。

 

 ゴブリン魔導士5体による火魔法である。


 何人かは気づき、避けたが、3人ほどにクリーンヒットする。


「アレン!」

 やられた兵士の名前だろうか。ミニゴーレムと戦いながら、兵士が叫んだ。


 すかさず数人の兵士が走り、ミニゴーレムの脇をすり抜け、ゴブリン魔導士を攻撃しようとするが、その時、一面に並べたバネ罠で体勢を崩した。


 そして彼らに魔法が殺到。後ろからの援護の魔法でいくらか相殺されるが、その数は少ない。ミニゴーレムで手一杯だからな。


 驚いたのはお嬢様も魔法を撃ったことだが、それでもまだ足りていない。


 隊長が戦いながら言った。

「撤退だ!」


 そして彼らはボス部屋から逃げていった。


 しかし外にもミニゴーレムが6体だ。


 



 彼らは長期戦の末、外にいたミニゴーレム6体を撃破した。しかし満身創痍だ。お嬢様も必死に魔法を撃っていた。


 おれはそこへ、おかわりを送った。


 新たにポイントでミニゴーレムを6体。ポイントの暴力である。


 それを見た隊長は一旦戻ることに決めたらしい。

 全員でミニゴーレムの脇をすり抜け、逃げていく。


 途中、ミニゴーレムにやられたり、罠に引っかかったりして、5人ほどが死んだ。


 


 ミニゴーレムを10体に絞り、ボス部屋の中に引き込む作戦は大成功である。


 まあ実際はそんな作戦があったわけでないが。


 20体並べたら幅的にキツくて、ミニゴーレムが思う存分動けなさそうだったというのが本来の理由である。それに8階層では、ミニゴーレム達が各個撃破されていたからな。その反省も兼ねている。


 しかしおかげで彼らが良い感じに中に入ってきてくれたし、ゴブリン魔導士の不意打ちも綺麗に決まった。


 ラッキーだ。


 彼らの中にミディアムヘアの女や聖女の側近レベルの実力者がいたら、こうはならなかったかもしれないが、現実は非情だな。


 個人的には、あのエルフ達を雇えば良かったと思うのだが、名誉を求めるから他人の力を借りるわけにはいかない、みたいな理由があったのだろうか。


 連携が乱れるとか、他の派閥の者かもしれないと警戒していたとか?


 逆に、雇うとしても正式な契約書を交わすわけでもないので、無理と考えたか?


 確かにおれがエルフの立場なら、攻略に協力させるだけさせといて、最後の方で裏切るとかしてきそうと警戒するもんな。


 そうなると今度はエルフの方から先に裏切る選択肢が生まれてきて……。


 うん。色々面倒くさそうだ。ダンジョンは信頼できない奴と攻略すべきではない。そういうことだな。


 だから雇わなかったということ。多分。




 現在のポイント:3万985

 ちなみに彼ら、行きは偽セーフティエリアをスルーした。人数的にも中に入り切らないし、普通に気づかなかった可能性も高いが、帰りはどうかな?

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