第32話 やはり金は全てを解決する

「お。終わったか」

 シャワールームからエルフが出てきて、男が話しかけた。


 ちなみに髪は魔法で温風を出して乾かし、しっかり整えてから出てきていた。まだ付き合って日が浅いのかもしれない。


「ええ。見張りありがと。アドランも浴びてきたら?」


「そうする。見張り頼んだ」


「オッケー。任せといて」


 そして男はシャワーを浴びにシャワールームに入っていった。ちなみに設置すると高かったのでドアはない。壁で仕切っているだけだ。


 男の裸を見る趣味はないので、貴族軍団の方を見ていると、男がすぐに上がってきた。早いな。


 男はエルフの横に座った。


 ちなみにエルフの服は割と肌の見える薄着である。


 男はさりげなく近づき、エルフと距離を縮めた。

 エルフと肩が触れ合い、目が合うと、顔を近づけ、そっとキスをする。


 そして良い雰囲気になると、服の上からエルフの胸を揉んだ。


 男の手に合わせて、エルフの胸がムニムニと形を変える。


 おお!


「ん…ダメよ。こんなところで」


 エルフにそう言われると、元より男の方もそのつもりだったのか、またキスをした後、すぐに手を離した。


 あわよくば、そのままラブホ内のような光景が見れると思ったが、さすがにそこまでは無理か。


 残念である。





 それから少しして、彼らは攻略を再開した。


 エルフが樹を育て、操り、罠を起動していく。それを止めようとしたゴブリンが樹に飲み込まれ、吸収された。


 ほんと、相性最悪だな。数と罠で消耗させるのがウチの売りなのだが、これじゃ逆効果である。


 初めて見た時は「マジか…そんなのあり?」と思った。


 これを破るには圧倒的な個が必要だ。樹に強いとなると火か。やっぱり。


 ゴブリン魔導士じゃ吸収されて終わりそうなので、やはりここはミニミニドラゴンかもしれない。


 しかしポイント制限的にキツイ。


 ならゴーレムのフィジカルでゴリ押してもらうか。あれなら樹にも勝てそうだ。


 うん。そうだな。そうしよう。


 そうまとまったところで、エルフ達の目の前に、同じような格好をした集団が現れた。


 なんとエルフ達が貴族に追いついたのだ。


 これはやはり懸念していた通り、魔物が強くなったこと、疲れたことにより、貴族軍の進軍速度が遅くなったことが関係している。


 対してエルフは、偽セーフティエリアで休んだことで多少の時間のロスこそしたものの、攻略速度は変わらなかった。休んだことでむしろ速くすらなったかもしれない。


 まあ、困ったことだが、エルフ達がこのまま貴族軍を追い抜かしてくれれば、また別々。


 余裕ができるはずである。


 エルフ達はおれの望み通り、休んでいる貴族軍を警戒しながらも、追い抜かそうとした。


 が、白い服の令嬢が男を呼び止めた。


「待って下さい!」


「あの、よろしければこの先の攻略、先にさせてもらえませんか?」


「お嬢様。ダンジョンでは早い者勝ちで…」

 お嬢様の言葉に、近くにいた兵士が諌めようとするが、お嬢様は続けて言った。


「事情は話せませんが、私にはどうしても、ここを攻略することが必要なのです」


 その言葉に、エルフが男に「断りなさいよ」と目配せした。


 男は言った。

「そうは言いましても……」


 そう断ろうとする言葉の途中でお嬢様の近くにいた、恐らく側近の兵士が近づいてきた。


 なんだやる気か、とエルフ達は少し構えるが、彼の手には何か袋がある。どうやら違うようだ。


「お礼と言ってはなんですが、これを……」

 そう小声で言い、男に麻袋を渡してきた。


「なんだ? 言っとくがおれ達はちょっとやそっとのことでは…」


 中を見て、男の口が止まった。目の色変わる。


 そしてちょいちょいとエルフを呼び、中を覗き込みながら小声で話し合い始めた。


「ど、どうする? すごい大金だぞ⁉︎」


「どうするって、これだけあれば私達大金持ちよ⁉︎」


「ああ! この金があったらあんなことやこんなことがやり放題だ!」


「それに貴族に睨まれるわけにもいかないわよね!」


「そうだな! じゃあ、帰るということで」


「異議なし!」


 ということで男がお嬢様の方を向いた。


「──なんです。だから、お願いします」


 お嬢様は何かしらの話をしていたようだったが、男には関係ない。


「お嬢様の言葉に心打たれました! ここは引きましょう!」


 ホクホク顔で言った。




 現在のポイント:3万5897

 しかし先に攻略するためだけにそんな凄い額を渡すとは。あの貴族軍団、かなり本気らしい。何か事情がありそうである。

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