第13話 緋眼猫
僕の一族は、たいがい皆、目が緋いんだ。
とても珍しがられる。
そして僕の一族は、「うさぎ狩り」で滅んだに等しかった。
・・・僕たち一族を神の作品としてそう呼ぶ狩りがあった。
闇市で売買されたりするらしいが、僕は幸か不幸か生き延びてしまった。
そして夜の世界で働くことになって、男娼になった。
男も女も、僕で遊んだ。
そして僕は好きに身体を売る権利持つ『金猫』にならないか、と言われた。
見聞したいと申し出たら、ウエイターとしてキャバレーに転がり込んだ。
むしろ髪の毛を赤く染めて、目の色と合わせてみた。
高級クラブにふさわしい色気を持っている、とオーナーにほめてもらえた。
数日はおっかなびっくりしていた。
キャバレー嬢たちのきわどい衣装や、同僚のそういう話。
キャバレー嬢たちの踊りも、同僚のそういう話もすぐに好きになった。
なんせその店には、いじめ、がない。
オーナーの意向で、みんな和気あいあいとしている店だった。
知り合いや家族や友人や恋人関係でごたごたしている過去のあるひとたちばかり。
僕は、男娼だったことを言って、本格的にそのキャバレーで働いた。
・・・ある日のこと、突然やってきたのはギャングだった。
ちょうどオーナー室にお茶を持って行った所で、オーナーは眉根を寄せた。
厄除けの口紅と書いて『いろけのくちべに』、というものを唇に塗った。
影から見ていたけど、客であるギャングの唇にキスをしていた。
そして熱烈なキスのあと、ギャングは死んだ。
「私達はこの時を、待っていたのよ・・・」
女性的な喋り方をするオーナーが、ナフキンで口元をぬぐった。
そしてギャング十人くらいが、ほぼ同時、吐いて悶絶して死んだ。
僕はオーナーに呼び出され、オーナーは、コンタクトレンズを取った。
コンタクトレンズには色がついていて、彼の裸眼は緋色だった。
オーナーいわく、僕たち「緋色の眼の一族」には、効かない毒物があるらしい。
それを特注の口紅に練り込んであったんだそうだ。
オーナーに拾われた不幸なおいたちのひとたちは、僕を知っていた。
そして「緋眼猫」と呼ばれていた男娼だった僕を、助けてくれたひとたちだった。
オーナーと同じ一族だから、って理由で、みんなが協力してくれた。
そのギャングは、「うさぎ狩り」の競りや狩りを手掛けていたやつらだった。
そして僕がウエイターとして落ち着いてきた頃、店がうわさを流した、と。
緋色の眼が店にいる、と。
そしてそれは、「緋色の眼の一族」としての復讐であった、とオーナーが言った。
オーナーは、警察に捕まるつもりだったらしい。
何をされるか分かったもんじゃない。
・・・そこに、店に客として残っていたスーツの男がいたんだ。
ギャングが入って来て、他のお客さんは帰ってもらっていたはずなのに。
事情が、トイレに行っていた、と。
トイレから出てきたあと、勘で格子の影から見ていた、と。
そしてそのお客さんは、協会員だった。
皆が神様に感謝して、協会に入った。
そのあと処理班がその方により呼ばれ、ことは隠蔽された。
そのあと僕は店を辞めて、芸能界に入った。
モデルの仕事を始めたんだ。
それは、『真実の声鏡』っていうアイテムの声を聴いたからだ。
今は緋色の眼に赤い髪が僕くらいしかいないし、定着しつつある。
いずれ、一族について語る機会があればいいな、って思っていたんだ。
文字司のレイラに一応、話してみたかった。
このあと、僕の半生についてインタビューがある。
もしかしたら、その話が本になるかもしれない。
そしたら・・・語ろうかと思うんだ。
一族がどんな目にあっていたのかを。
緋色の眼の一族が、秘密にされていた秘密を。
君がまだ幼い女の子だって聞いたから、男娼だったころの話は割愛した。
もし本になったら、そっちに贈ってあげるよ。
気が向いたら読んでみて?
ははは。
これで書籍化されなかったら、超恥ずかしいね。
ごめんごめん。
書き出してくれてありがとう。
とりあえず夢だった、モデルの仕事につけてよかった。
一族から反対されていたんだ。
インタビューで自分がどんな面を出すのか、未知数。
正直、緊張している。
記者に変なのがいる危機感もあるし。
マネージャーは、大丈夫だって言ってくれている。
マネージャーも協会員。
モデルに間違われるくらいの美形なんだけど、いまいち不思議なひと。
まるで生クリームと蜂蜜とメープルシロップを使ったお菓子みたいな花をくれた。
なんの花なのか聞いたら、シュアザローナだ、って言ったんだ。
それって、架空の花の総称だよね?
不思議なひと。
世界にはまだまだ緋色の眼がいますよ、って言われて、びっくりした。
昨日のこと。
カラーコンタクトを取ったマネージャーの裸眼は、緋色の眼だった。
未だに、僕は族長が浮気して作った血筋の当主候補だって言われても、ピンと来ない。
人との違いによって認められたいな、とは、思ってるけど。
・・・ああ、インタビューの時間だ。
書き留めてくれてありがとう、レイラ。
緊張がいい感じで解けてきた。
――
―――――・・・
この記述はレイラと魔法の羽根ペンがしたことをここに記す。
[ 追記 ]
あのあと書籍化された彼の半生は大々的にとりあげられたらしい。
名目、ファンタジー小説として紛れて。
一部の一般人はもう、気づいてる、って。
この章のタイトルは、本と一緒で【 緋眼猫 】にしようと思う。
贈らて来た本に、サインが入っていて嬉しかった。
可愛いレイラちゃんへ、って添え書きがあったから。
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