第11話 使い魔シャンクス


 物心ついた時には、すでに両親の意向によって協会員だった。


 なぜかそれが嫌でたまらなくて、成人した時に協会を抜けたんだ。


 ・・・それからは漁港が近い場所に引っ越してひとり暮らしを始めた。


 自由きままで、のんびりした時間の流れかたが珍しかったし、気に入った。


 漁港の手伝いあれこれを仕事としていて、そこで外猫にエサをやるのは趣味の類。


 ある日、金色の眼をした黒猫が現れて、話しかけられた。



「あの時助けてくれたこと礼を言う。もうすぐ運命の相手を出会うぞ」



 蘇ったのは小さい頃助けた金色の眼をした黒猫だが、張本人だと言う。


 少なくとも二十年前だ。


 それからは喋る猫との奇妙な生活が始まった。


 ・・・なつかれたんだ。


 『彼女』と出会ったのはすぐあとで、見慣れない顔だから挨拶をしただけだった。



 側にゴールドもいたし・・・あ、喋る黒猫の名前は目の色にちなんでゴールド、だ。



 いつも階段の下段に座って、猫とじゃれている姿を見ていたって彼女があとで言った。


 日傘を差していたいい匂いの彼女が立ち止まっていることに気づいて、振り向く。


 そしたら風がなびいて、何かを言った彼女の声がさらわれた。



「そこ、暑くないですか?」



 それはこの場合、彼女からの愛のシグナルだった。


 猫たちにエサをやるのを大義名分に、彼女は時折やって来た。


 やがて自然と交際が始まり、一生を誓う仲になりかけていた頃・・・


 彼女の、家のための結婚が決まった。


 

 情緒を崩した私を支えてくれたのは、ロビンだった。


 なかなか女性的な名前だろう?


 私の里では女性の名前でしかないんだ。


 これを言うと、意外がられる・・・まぁ、いつものことさ。



 やがて私はロビンの求婚で結婚をして、子供をもうけた。

 

 なかなか可愛いこで、そしてロビンは・・・協会員であることを打ち明けてくれた。



 子供を協会に早めに入れておきたい、と言われて、ぎくしゃくした。


 

 そんな時、『彼女』と再会して・・・昔話に花が咲いて・・・


 正直、浮ついたことをしてしまった・・・



 息子がりゅうちょうに喋るようになってきた頃、ロビンに浮気がバレた。


 別れ話になって、ケンカになって、ロビンは協会に相談に行った。


 相談内容は、どうしても妻の作る料理しか食べたくない、というものだった。



 ・・・そうだ、言うのを忘れていた、ロビンは旦那で、私は女性だ。



 旦那に、嫌いじゃないなら関係を続けようと持ち出されて、正直困惑した。


 旦那は『二人目が欲しい』と私に言うし、よく分からないひとだった。


 どうしてよりにもよって私と結婚をしたのか聞いても、惚れたんだから仕方ないって。


 男ってどうしてこうも・・・


 たびたびその先を考えてみようかとは思うんだけど、思いつかない。


 もともと私が曖昧な造りになっているんだろう、と思ってしまう。


 それも善いことなのか分からない。



 そんなことをゴールドにぼやくと、返事が返って来るから特別な存在だ。


 あまり気にするな、となぐさめてくれる私の愛猫。



 『彼女』からの提案で家族ぐるみの付き合いを始めるようになって・・・


 そして、浮気の強要も始まった・・・


 彼女の束縛は日増しになって、暴力に至った・・・



 そして身体にアザが出来ているのを、旦那が見つけて、ことが発覚。


 女性同士であることをのぞいても、許せないことだ、と言ってくれた。



 思わず泣いている間に、ロビンと彼女の旦那が取っ組み合いになった。


 そして『事故』で、彼女が死んだ・・・



 それはなぜか、私の息子への乱暴を彼女の旦那が知った時だった・・・



 今では素直に言える。


 ああ。解放された、と・・・



 そして彼女の方の旦那と共に、協会員になった。



 街でうわさが立ち始めているので、引っ越さなきゃいけない。


 だからゴールドにどうしたいか聞いたら、文字司のレイラに会ってみたいらしい。


 今からそちらに協会員経由で贈るから、ちょっと怖いやつだけどよろしく。


 ペットになりたい使い魔らしい。



 可愛がってやってくれ。


 話はこれくらいだ・・・書き留めてくれてありがとうね。



 入ったばかりだから、君のほうが先輩か。


 どうぞ、よろしく。



 ――

 ―――――・・・


 この記述はレイラと魔法の羽根ペンが通信したものとここに記す。



[ 追記 ]

 

 新しい名前を付けてくれ、って口で喋る金色の眼の黒猫が本当に来た。


 使い魔の意味がまだ分からないけど、それなら側近の彼がしばらく里に帰るって。


 猫の名前はシャンクスにしたわ。


 よろしくの挨拶をしたし、仕事もひと段落、さて、恋人はいたか聞いてみたいな。

 

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