第10話 夢見の漢方医


 さて・・・君が誰なのか分からない。

 


 私:『文字司のレイラ』。



 語っていいってこと?



 レイラ:どんなお話だろう?



 僕の名前はソウケン、三十代の男性です。


 ・・・僕は生来身体が病弱でした。


 なんだったら寝たきりだったんだけど、ある日、幻を見たんだ。


 夢だったのかどうか分からないけど、黒い衣に、黒いサングラスの男。


「滋養強壮」ってフレーズがなんだか好きらしい。


 その男にいざなわれて、少しずつリハビリトレーニングをした。


 もう少し元気になったら、漢方と関わりなさい、って言われたんだ。


 そしたら「かんぽう」って何だろう、って思って、親に聞いた。


「お薬のことらしい。体にいいものよ」って言われて、漢方を飲み始めた。



 漢方とリハビリトレーニングとで、自然に動けるようになった。


 だから恩返しに、漢方に関わってひとを助けたい、と思うようになったんだ。


 

 粉状のものや、煮出すタイプもあって、壁一面の引き出しがあったりする仕事。


 正直、僕ってかっこいい、って引き出しのかっこよさ分、錯覚が起きた。


 気のせい、ってやつかのかも。



 制服がある漢方屋に勤めて、ある日のこと、お客さんが言ったんだ。


「パプとメンヤってありますか?」って。


 聞いたことないな、と思ったら、なぜか先輩たちが店の看板を「準備中」にした。



 どういうことだろう、と思ったら、少年が「夢で見た」って。

 

 そのパプとメンヤ、っていうものを。


 そして夢の中で、店の内装まで見えた、って。


 外観は通りすがり知っていたけど、内装を見て夢とそのままで少し驚いた、って。



 先輩たちは、「パプとメンヤの夢を見るなら協会員になりなさい」って言ったんだ。


 勤めている店は、協会員でほぼ全員。


 僕、以外が。



 そして意外なことに、僕は「パプとメンヤ」を見たことがあった。


 名前は知らなかったけど、僕の夢にも出てくるものだった。


 それを言ったら、「やっぱりか」って言われて、協会員になることをすすめられた。



 それでこうやってレイラちゃんに書いてもらってるわけなんだけど、


 どうやら僕は夢見の能力者かもしれないらしい。



「滋養強壮」ってフレーズが好きそうなあの男も、そう言えば夢で見たから。


 自分的になんだか信憑性っていうものが感覚である感じがした。


 

 先輩が、これなにか分かるか、って手に持っていて、あ、パプとメンヤだ、って。


 僕はあんまり比喩とかができないから、どう形容したらいいのか分からないんだけど。


 ・・・木の実の繊維とかジャーキーに似てるかな。


 珍しいやつは、割りばしを味付けして煮込んだ感じの印象のやつとかあるの。



 あ。久しく比喩ができたかも。



 味見したことあるんだけど、なかなか美味しいけど好みじゃない。


 だからって、大切な売りものなんだけどね。


 ・・・そうそう、そう言えばその話をしたかったんだった。



 漢方屋のことを勘違いして入ってきた危ないやつが、ナイフをちらつかせた。


 薬もってこいや、について、風体からジャンキーだった。


 金は持ってるからよこせ、って言うから、先輩たちと協力して演技をしたんだ。


「液体状の飲むタイプなんていかがですか?」って、かわきりに。



 


 先輩が番号を言って、引き出しから指定されたものを僕が取り出した。


 それは、漢方じゃなかったんだ。



 『宿命の石』っていうものの粉。


 それを白湯に溶いて『お客様』に渡すと、紙コップ一杯分をすぐに飲んだ。


 数秒後、口、喉、食堂、胃まで流れていく粉成分が淡く光って形を作った。


 

 『宿命の石の粉』は、時々調べたことを身体を通して言うらしい。



 昔の友人に誘われて悪い薬をして、抜け出せくなった、って事情らしい。


 そして親が教育方針の件で離婚して、片親家庭になったこと。


 引き取った片親が再婚を理由に自分を見捨てたこと。


 頼れる親戚もおらず、前科からまともな仕事はなかったこと。



 ・・・そんな感じのことを語って、男は泣いた。



 話を聞いてくれて、ありがとう、と。


 そしてお客様から『代金』をもらったところだった・・・



 例の夢見の少年が店にやってきて、男と目が合った。


 そして、「こいつ夢の中でひとを刺していた」って叫んだんだ。


 先輩が、「殺したのか?」って聞いて、


 男は「むしゃくしゃしてたんだ」と妙にすっきりしたような顔で言った。


 少年が、「手配書の男が夢に出てきたからこちらに来たんです」と言った。


 少年が持参した手配書には、目の前のナイフを持った男の顔。



 心臓が高く鳴り出したような緊張をした。


 手配書には、「デッドオアアライブ」と書いてあった。


 先輩が「どういう意味だ?」ってなまりで言って、僕が訳した。


「生死は問いません」のことです、って。



 そしたら「なるほど」って先輩が言って、引き出しから銃を取り出した。



 そこからはあっと言う間だった。


 おい、って手配犯に声をかけて、少年から先輩にふりむいたら手配犯は笑っていた。


 多分、ここにいる誰かを殺す気だ、って思った。


 なんだかそんな予感がした。



「この坊やを待っていたんだよ」



 手配犯が嬉しそうにナイフを舌でなめた時、先輩が手配犯に発砲。


 眉間に入った銃弾は途中で止まり、「正当防衛を主張する」と先輩が言った。


 撃たれてからもしばらくナイフをなめていた男が、硬直して床に倒れた。



 処理班を呼ぶ、って言われて、先輩はきっと無罪だ、とか、僕はぼやいていたらしい。



 夢見の少年が僕に話しかけてきて、あなたについても夢を見た、って言ったんだ。


「今日、多分、運命のひとと出会う」って。


 それは女性かどうか聞いたら、そうだよ、って言われた。



 その日処理班に同行していたのは女性で、別の機関からの派遣だった。


 そしてその女性は、病院にいた頃の初恋のひとだった。


 彼女が協会員肯定派だって言うから、それからお付き合いがはじまった。


 

 夢見の少年が店になかなか来なくなったことを心配しながら交際は進展した。



 そして夢の中で、話す機会があったんだ。


 僕は未来を変えるために、死のうかと思う、って。


 名前をタルトと言う、と言われて、目が覚めた。



 翌日、少年が自殺したことを親が店に知らせに来ていた。


 寿命より少し長く生きれたのに、なぜ自殺したのか理由を知らないか、と、


 先輩たちは心当たりがない、と言った。




 そして僕は結婚をして、妻が僕の子供を腹に宿した時、不思議な感じがした。


 名前、タルトにしよう、って自然に言えた。


 そして協会員と結婚したって理由で、妻は専業主婦になった。



 少し成長した子供をつれて協会の教会をおとずれた時に、神父と会った。


 うちのタルトは女児で、神父様は女性に「君付け」するのかな、って思ったんだ。


 そして神父に、タルト君が生まれ変わって、女児になったって言われた。


 彼から相談を受けていたのだが、未来の予定では望まぬ子種役だったらしい。


 それが嫌で、そして僕をひととして好いてくれて、娘として生まれ変わった、と。


 

 協会側にお願いをしたら、前世の記憶をほどこしてもらったんだ。



 ただ、女児なら未来の指導者の嫁になる未来が待っているらしい、と言っていたと。


 まだ幼い自分の子供でもあるし、なんだかショックだった。



 妻と、子供を大切に育てよう、って誓った。


 妻も快方に向かっている。


 色々悩んだらしいけど、たくましい可愛いひとだ。


 お花をプレゼントしたら嬉しすぎてちょと食べたひとだから、きっと大丈夫。


 本気を出したら布だって食べかねない、とか言うひとなんだ。


 可愛いだろ? 

 


 ・・・ああ、そうそう。


 うちの娘のタルトは、コクーテって言うところの許嫁になったんだ。


 もしかしたら、近々君も接触するかもしれない。


 書き出してくれてありがとうね。



 ――

 ―――――・・・


 この記述は、レイラと魔法の羽根ペンが代筆したことをここに記しておく。

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