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「説明は苦手なんだけどね……」と話は続けられる。不安そうに先輩はポニーテールの先を弄っていた。落ち着かない様子がよく分かる。
「こんなことを初対面で伝えても信じてもらえないかも知れないんだけど、全然怪しくないから!……というのが怪しいのよね。うーん、でも、最後までちゃんと聞いて欲しいな」
「はい、聞きます」
「ありがとう! 私に出来ることなら何でもするからね!……で、本題なんですが」
向けられた真っ黒な瞳に私が映っている。
黒く見えるようで濃褐色が多いとされる日本人には珍しいくらい、本当に真っ黒だ。吸い込まれてしまいそうな神秘的な美しさがある。
「私の家系は長い間、怪異と言われているモノの研究をしているの。それに関する相談にも乗っていて、怪異専門のよろず屋みたいなものなの」
「……あ!」
思い出した。
誉が相談すると良いと話していた3年生がいたことを。目の前の彼女がそうだったんだ。
「先輩の噂は聞いています」
「あら? そうなの?」
「隠しているわけではないけど、新入生にまで知られているなんて……」と恥ずかしそうに頬を掻いている。
「それなら話は早いのかしら? ……あなたね、取り憑かれてるわ」
「……え?」
「大丈夫、ちゃんと祓う事はできるから。私にはその力はないけれど、知人に専門家がいるから安心して。あなたのその体調不良は取り憑いた妖怪の所為だから、どこかに移ってくれるか祓う以外の方法はないの」
「……」
取り憑かれている?
全く予想していなかったことを告げられ、口をぽかーんと開くことしか出来ない。
「すぐに知人と連絡は取ってみるけど、早くても放課後になっちゃうかな。あなたの都合はどうかしら?」
勝手に話が進んでいく。
……嫌な予感がするんだけど、まさかその専門家って?
「もしかして、もしかしなくていいんですけど……、そのお知り合いは風紀の副委員長なんて言いませんよね?」
「あら? 尾良川くんと知り合いなの?」
「……知り合いと呼べるようなほど知らないです」
「?」
たまたま会ったことがあるだけだと説明する。
あの時の鈴は手元にあるけど、副委員長が物騒なことを言っていたので部屋の机の引き出しに入れてある。
そのせいで何か取り憑いたのであれば馬鹿みたい。
「先輩は取り憑いたものの姿が見えるんですか?」
ふと気になったことを口にする。
今回の妖怪(?)は私の目には見えていない。
「私ははっきりとは見えないの。何と言えば良いのかな、オーラっていうのかな。そういうのを感じ取ることは出来て」
「なるほど?」
「もっと力が強ければ良かったのに」
先輩の睫毛が影を落とす。
トーンダウンした声で「あまり役に立てなくてごめんね」と謝られた。
「いえ、妖怪のこと教えてくれてありがとうございます。心因性と言われても不思議だったので、体調不良の原因が分かって助かってるんです」
フォローになっているだろうか?
そんなに落ち込まないで欲しい。
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいわ。こんなにあっさり信じてくれるなんて、あなたはいい人ね」
妖怪なんて言っても怪訝な顔をされるだけよ、と付け加えられる。
確かにそうかも知れない。でも、
「良かったら連絡先か部屋の番号を教えてくれるかな? 尾良川くんから返事が来たら伝えるから」
「じゃあ、今はスマホを持っていないので部屋の番号を」
それじゃあ、また。
にこっと微笑んだ先輩に見送られながら、部屋へと戻った。
* * *
いつの間にか眠っていたらしい。
寮の中が賑やかになっているので、もう放課後みたいだ。
ベッドの上に寝転んだまま、手探りで体温計を探す。
「ちょっと上がってるし……」
表示を見て溜息を吐く。
寝ている間に汗をかいたのか喉がカラカラで、水を買っておくんだった。今は動くのも億劫なほど体調が悪い。
目を閉じて、ブランケットの中で体を丸める。
「……うーん、熱い」
体が火照っていて熱いと思っていたら、額に冷たい感触がした。あ、気持ちいい。
「茉百合」
聞き慣れた声にホッとする。やっと来たのか、遅いよ。
「具合が悪そうだな」
「うん……」
「聞きたいことがある」
「なあに?」
「茉百合の体に不快な匂いが纏わり付いている」
「は?」びっくりして目を開く。
え? 汗で臭い? 最悪なんだけど!
「恥ずかしい、そんなに近付かないでー!」
白遠の体を押して遠ざけようとするのに、何を思ったのか横に寝転んできた。シングルベッドなので、もちろん狭い。
「これくらい近付かないと、茉百合の匂いが消されている」
不満そうな呟き。
気付けば、腕の中にすっぽりと収められている。恥ずかしさに身じろぎしても離してくれないし、今は白遠の冷たい体温が気持ちが良い。
はだけた着流しの胸元におとなしく収まっておくことにする。
蛇足でありますが、どうやらこの結婚は✕✕✕です。 音央とお @if0202
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