花火大会
望月朔菜
待ち時間
乾いた爆発音が鼓膜を揺らす。花火大会の開催を知らせる段雷が駅のホームまで響いてくる。
「花火、一緒に観に行く人とかいないんですか?」
音に釣られてか後輩がそんな事を言い出す。いないからこうやって帰りの電車を待っているんだろ、という言葉をぐっと飲み込む。
「それが、いなんだよね」
無難な返し。でも後輩との距離感なんてこんなものだ。
「…まあそのうち良い人見つかると思いますよ。私は応援してますから」
周りには浴衣を着てはしゃぐ女子やカップルが会場行きの電車を待っている。はたからみれば僕らも学校帰りに制服デートしている高校生に見えるのだろうか…否である。
僕たちはお互いの顔などでは無くスマホと見つめ合っているから。彼女は画面から顔を離さないまま言葉を紡ぐ。
「てか花火大会行くんですか?」
「いやいかないけど」
「確かに一人で行くの寂しいですもんね」
もう見慣れてしまった、にやつく後輩の顔に言い慣れた台詞を投げる。
「馬鹿にしてる?」
「いえそんなつもりは」
馬鹿にしてるのを隠そうともせず屈託なく笑うその少女はこの時間を楽しんでいるようだった。まぁ、楽しんでくれてるならいいか。
「私は行きますよ、花火大会」
「そう、楽しんで来てね」
「ありがとう、お父さん」
「お父さんじゃないし」
他愛無い会話が繰り返される。電車を待つこと1時間と三十分、会場と反対方向に向かう路線の本数は雀の涙ほどだ。さっきまであんなに居た浴衣の人々もほとんど姿を消している。太陽はもうすっかり姿を消し空は暗転、細い月が僕らを見下ろし笑っている。ぼーっと空を眺めていると駅のホームを挟んで電車が二本到着した。花火を見に行く後輩とはここでお別れだ。
「先輩、花火観に行かなんですか?」
「だから一緒行く人居ないって…」
言葉が遮られる。
「だから、花火。観に行かないんですか?」
ドーンと大きな音が鼓膜を揺らす。光はまだ見えない
花火大会 望月朔菜 @suzumeiro
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