第29話 犯罪奴隷、いつだって忠実
「なにが出るかな。なにがでるかな、おいしーもの希望ー! えい!」
いや、お嬢、部外者に大公開はどうかと思うんだわ。ねぇ、メイリーンさんよ。あ。目が点だな。
テーブルの上にばさばさと白い袋が五つ落ちてくる。
「なん、コレ? ガチャ?」
少年がぽつんとわけのわからない単語を吐く。
お嬢はうきうきと白い袋に手を伸ばす。ひとつひとつの大きさはお嬢が両手で抱えこめる大きさ。大きいとみるか小さいとみるかがわからない。
中に細かい物が入っているのかがさがさと軽い音が聞こえる。
「え。まじ? え? 嘘だろ」
少年の声がうわずっている。期待と混乱状態だ。
開けようとして袋を引っ張るお嬢の手をとめて「貸せ」と受け取ってナイフを這わせる。
すっと切り裂かれた隙間から油の匂いが吹き出し胃袋を刺激する。
「まじ、ぽてちだ。ウソだろおい」
「ぽてち?」
お嬢がきょとりと首を傾げる。あざとかわいい。
「芋の薄切りを油で揚げたおやつだよ」
少年が解説する。
「あ。異世界の救世者がよく作るメニュー。今では油が高価で作る家も少ないけど、王都でならまだ廃れてないかもね。技術継承目的で」
メイリーンが追加で解説をのせる。
「王都の人こんなの食べてるの? すっごい薄っぺらいよね」
お嬢が嬉々として一枚芋の薄切りを手にとってかざす。
「物好きな食道楽なお金持ちくらいですよ。上質な植物油でお芋を揚げるのに使うなら貴婦人様方は香油に使うでしょうからね」
「へぇ。じゃあ珍しい食べ物なのね。りょーしゅ様に送るべきだった?」
「いえ、袋の中に複数のスライスだったのですから現在の在庫と合わせて数が多くても困りますし、一枚だけ入れておくのもどうかだと思いますよ? この一袋の芋の薄切り揚げがいかほどの価値か推測は立てておくべきでしょうし、推測を立てた上で報告して、そうですね。私としてはお嬢さまが今以上の他の方の前で『くじ引き』をなさらないことを希望しますね」
あくまでも俺らの最終意思決定はお嬢だからな。事実、このくじ引きを少年やザナ、受付嬢に見せる必要はなかったように思うから。
「そ、そうですよ! いきなりこんなスキル見せられたら驚くじゃないですか! あたしが、ザナが悪い人を手引きしたらどうするんですか!」
「え。兵士のお兄さんと騎士のお兄さんたちが悪い人退治できるね」
お嬢、『できるね』にっこり。じゃねえんだわ。危ないにも程があるだろ。
ザナが絶句している。
お嬢はこう見えて自分が辺境伯様に守られているのをちゃんと自覚しているからな。
ん? その袋重いのか? お嬢。
「お嬢、重いんなら俺が」
その袋はずっしりと重くゆらぐ。
中身は液体だな。
表面の袋を引き破ると出てきたのはうすく濁ったスライムのような袋に入った柑橘色の液体。
木桶一杯分くらいだろうか?
『オレンジジュース』(果実飲料)
ふむ。
ぽてちとオレンジジュース。六人で囲む昼食おやつには少ないな。まぁ屋台でも買い物はしているが。
『ピーマン』(野菜)
袋からばらばらと落ちてきた緑の物体にお嬢と少年がすこしだけ渋い表情をする。
「パパがコレ焼いてくれたけど苦かった」
どうやら以前にも出てきているものだったらしい。
『ハム切り落とし』(豚肉)
お。肉だ。
「おにく! マイマイの食肉と一緒に焼こう!」
お嬢がわかりやすくはしゃぐ。
「はいはい。お嬢、ピーマンも一緒に焼いて食べましょうねー。野菜は貴重ですよー」
ザナに視線をむけると調理用鉄板をテーブルの方に持ってきてくれる。メイリーンが鉄板を温めれば屋台で買った物も温め直せるし、いいだろう。
「さーいご」
お嬢が機嫌よく開けた袋からは焦げたパンのような塊が出てきた。
『チョコデニッシュリング』(パン)
……なぁ、メイリーン、コレすごく高級品では?
「おお! パンだ! チョコの入ったパンだ! きっと美味しいよ。シーアちゃん、ナッツくん楽しみだねぇ。六等分して。ジェフ」
当然俺は犯罪奴隷。ご主人様の命に忠実な奴隷ですとも。
ひと財産になりそうな食事にザナがものすごく怯えていた。飯代請求はないから心配すんな。
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