第28話 犯罪奴隷、にぎやかな帰り道

 二階層を満喫したレベル六お嬢は今日も管理局の出口を選ぶ。

 受付嬢シーアが立っていたくらいで相変わらず人気がない。


「あ。シーアちゃん」


 お嬢が嬉しそうに声を上げる。


「おつかれさま。アンシーちゃん、『レベル壱』迷宮は楽しめてる?」


「楽しんでるー。変異種がいっぱいだよー」


「あはは。知ってる。アンシーちゃんたちが変異種狩りしてくれて助かっちゃう。レベルあがったぁ?」


 受付嬢シーアが問えばお嬢が得意げに胸を張り、拳を空に突きあげる。

 あー、あれだアレ。意味なくカッコイイポーズとかやっちゃうあれ。お嬢かわいいね。


「順調にレベルろくです!」


 一日確実に一レベルあがっているので外野は「おー」と声をあげて拍手である。

 乗り切れていない少年をメイリーンがお嬢に気がつかれないように睨む。少年も「す、すげぇと思うぞ」とぎこちなく賞賛する。


「ありがとー。ナッツくん!」


「あー、少年の同行は聞いてなかったから確認ね」


「あれ? そうなの? 神官様がナッツくんも一緒にって。滞在中のちょっとしたアンナイも含めてって」


 こてんとお嬢が首を傾げる。


「レベル十三って言うから迷宮入り許可出てると思ったが?」


 可能なレベルではある。


「まぁそうなんだけど、でも、君迷宮入り申請していないでしょ? わかる。神殿の子だもんね。申請しなくても強めの冒険者の荷物持ちとしてなら一階層に入れるもんね。その冒険者にお金払って。でもね、アンシーちゃんたちはちょーっと特別枠なの。領主様のお声がかりってね」


 にこにこと受付嬢が説明をする。

 連れて入ったのはまずかったのか? とちょっと動悸が激しくなる。お嬢も不安そうだ。


「そこに神殿の子が入るとね。少年はその気がなくてもアンシーちゃんの成果、魔力を含まない水の成果を神殿側にいいように利用されちゃう可能性があるのよねぇ。異世界からの救世の聖人様たちへの助力を神殿を通じて願い続けて無視され続けてるのに領主様からの寄付金だけとって音沙汰なし! アンシーちゃんの巡回に関しても神殿我関せず。むしろ評判落としていく方針でちょっと腹がたっちゃってさ。ねぇ、少年。知ってる? アンシーちゃんの巡回の報酬、八割救済活動費になってるんですって! あ、少年は知っててアンシーちゃんにつっかかったのかなぁ?」


 にこにこ怒涛の発言である。


「そりゃ、領主様の部下のお役人たちも騎士様たちも無事に気を使うわよねぇ。聖女ちゃんの行っている迷宮の鍵を自分たちにもよこせって煩くって」


「え! レベルあげ妨害される!?」


 お嬢が大きな声をあげる。

 同行となれば間違いなくレベルあげはできないだろう。

 ちやほやが目に浮かぶ。


「冒険者ギルドの方もうるさいし、今日は散々! アンシーちゃん、なぐさめてー。あ。ちなみにギルドは神殿よりっぽくて領主様の語る『水の聖女様』には懐疑的っぽいわ」


 お嬢をぎゅうぎゅう抱きしめる受付嬢シーアにメイリーンが苛立たしげな視線をむける。


「だって、わたし聖女じゃないですもん。ちゃんとずーっと言ってますよ? シーアちゃんおつかれさまです。んー、一緒にごはん食べに来ます? 屋台で買い足してみんなでごはん」


 お嬢がにこにこと受付嬢を誘う。


「今日はザナさんも逃さずご一緒で、あ、もちろんナッツくんもですよ。なに買って帰りましょうか?」


 すこし展開についていけてなかったっぽい受付嬢シーアがにっと笑う。


「にぎやかごはん? 悪くないわね! 少年のオススメ屋台を案内なさいな。私はついていくだけだし。アンシーちゃんたちは町に来てまもないんだから!」


 ま、案内要員ではあるはずだしな。


「しっかり系? どっしり系? あっさり系?」


 少年が系統を提案してきたのでお嬢が受付嬢シーアの腕の中からびっと手を伸ばして「あっさり系! 明日は違う奴!」と応えた。


「俺、これからも一緒でいいのか?」


 少年が当然の疑問をこぼす。


「えー。案内してくれるのはうれしいし、近い年頃のお友達うれしいよー。それにね。わたし、聖女なんて呼ばれている今はきれいに忘れられちゃえばいいと思ってるんだー。ただの町娘として平凡に暮らすのー」


 あー。はいはい。

 ちょっと街のひとつやふたつ沈めることができる平凡な町娘さんですね。




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