第27話 犯罪奴隷、理想は適材適所
二階層は荒野が、涸れた土地が広がっていた昨日の一階層と同じだ。
うごうごと変異種が蠢いている。
少し違いがあるとすれば地割れは薄く、ほんのりと雑草が芽生えかけているところだろう。
若い草がアシッドマイマイ(変異種)の粘液でじりじりと萎びていく。
たぶん、変異種を間引いて水を撒けば緑のフィールドなんだろう。二階層も。
「少年、お嬢についてお嬢を守るように。あー、お嬢、その棍棒で少年殴っちゃいけませんよ。結構痛いですからね」
「わかってる! ばーんってやっていいのはマイマイでしょ」
すっぽ抜けそうな握り方でぶんぶんとお嬢が棍棒を振る。
レベルが上がって力が多少増えたことも有り、軽く感じているんだろう。握り方がすこし適当になっている。
「お嬢。握り方が教えた握り方じゃないですよ。握り直してください。あと、無駄振りしない。はい。握りなおして」
「あ。はい。えっと、こう?」
お嬢が素直に握り直す。
「素振りをする時はきっちりと教えた型を守ってください。変な癖がつくのは良くないですし、体を傷めます」
説明を繰り返しながら握り方を修正し、振り方の流れをなぞってもらう。
本当はもっと走り込みや柔軟基礎体力を教えておきたいところだがすこしずつだ。
「お嬢さまには楽しく動いてもらえばいいんじゃないの?」
メイリーンが無責任なことを言う。
「俺とおまえだけで守るなら問題はないが少年がいる。少年に間違えて怪我させるような事態は避けるべきだ」
お嬢が最終的に気に病むだろうし。
俺とメイリーンだけであれば一掃しつつ、お嬢のスカ振りを補助もできるし、すっぽ抜けが発生しても棍棒の回収は容易い。
だが、少年がそばにいればそれはできなくはないが気をつけるべきことが増え、不慮の事態はいつだってあり得る。少年がお嬢を庇うための動きをとって自滅も洒落にならない。
「つーまーりー。ジェフ」
「なんです。お嬢?」
「わたしはナッツくんに護衛してもらいながら、昨日みたいに渇いた大地にお水流しておこうと思います! 昨日と一緒ならノーマルマイマイが出てくるはず! で、変異種はジェフとメイリーンでお願いね」
今日もいっぱい集めたいと殻入れ用の袋と魔核入れ用の袋をしっかりもってきているのだ。
「で、今日はお家に帰ったらアシッドマイマイの肉を焼いて食べよう!」
一階層ですこしだけ出た食用肉にお嬢はわかりやすく興奮していた。
アシッドマイマイ(毒吐きカタツムリ)なんだが。
キラキラのお目々で「自力で食べられる物狩れた!」と見上げられた時、お嬢にとって『くじ引き』は自力認識に入らないんだなと知れた。
それも自力なのだが、肉体的労力を伴っての成果が嬉しいのはわからないでもなくて俺は「よかったですね」と見守る。
たぶん、俺はお嬢が労力を伴った成果を喜んでいることがうれしい。
努力が報われるわけではないがなにかに繋がる体験は大事だと思うから。
まぁ、お嬢はこれまでの働きだけで生涯生活保障されて当然の聖女さまなんだがな。
同時に十歳にもならない未来ある子供だから。
俺らの安心のためにおとなしくしている判断してくれるのはありがたいが、視線が届き難いところで不意の事態は起こり得る。
「俺も気をつけます」
少年が慎重に頷いてみせる。
お嬢に暴力を振るえば即処分だが、使えるなら使える存在でいてほしいものだ。
「ああ、頼むな。少年」
さぁ。変異種殲滅戦と参りますか。
「メイリーン、大型使うならお嬢からは距離をとれよ。奥にいるっつってるがお嬢は動くからな」
一応、メイリーンにも釘を刺しておく。不要な被弾はごめんだ。
「どうしてそんな大型魔法が使えると思うのよ」
「そりゃ、お嬢が変異種の殲滅を認めているんだからそのために必要なものには使用許可が出ているような仕様だろ。もちろん、お嬢に危害を与えたいっつーんなら無理だろうが」
あたりまえのことを告げれば、メイリーンが不機嫌な顔をつくる。
正直面倒くさい。
「お嬢に問題さえなければ、俺は別におまえに嫌われていてもかまわない。が、お嬢に気付かれて哀しまれるような事態は避けてくれよ」
所有物のために所有者が気を使うような状況は無様だと思うんだわ。俺。
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