第14話 犯罪奴隷、迷宮の街の手前に着く
他愛ない雑談をしながらのゆっくりとした移動。
ピレトマイアから四日幻獣祭壇と小迷宮の町コドハンのひとつ手前の町についた。
水の気配も有り、領都グロースよりも出歩く人は多く、屋台や店舗も賑やかな雰囲気だ。
「すこし魔力が澱んでいるかな?」
不愉快そうにメイリーンが呟き、お嬢がソレを見上げている。
コドハンに出る側はそれなりに高い壁がある。町全体を囲んでいないのはコドハンの魔物が暴走する時の暴走コースを抑える壁でしかないからだろう。
ここが抜かれれば領都グロースまで潰れる。
ただ、コドハンの迷宮は小迷宮と言われているだけあって比較的魔物も弱く罠も少ない迷宮であると知っている。
そんな知識が流れて、俺はそれを知っているような生き方をしていたとも気づく。
そして、メイリーンのように魔力の澱みなどはわからない。
「お店がグロースより多いねぇ」
お嬢のはしゃぐ声に案内についた兵士がにこりと笑う。
「迷宮の恩恵がぎりぎり届きますし、怪我をした冒険者が休養地として利用してますからね。聖女様が迷宮のある場所を訪れない理由のひとつでした」
「ふぅん。でも、今回は貯水池に水を流しておいてってりょーしゅ様言ってたけど、お水は足りてる?」
「生活に困らない程度には。魔石や魔法使い達が頑張ってきていますからね。ですから、聖女様が貯水池を満たしてくださることを皆が喜んでおりますよ」
土地の魔力過多が起こると土地から魔物が生じやすく、水を魔力で出し魔物を生じさせ、斃して水を浪費するという展開になりやすい。いくら戦うことになれた冒険者が多い地でもきついものはきついのだろうと思われる。
それに生活用水をなんとかしても周囲の土地や畑が枯れては人は生きていけなくなる。
幻獣山脈から流れる水は小迷宮に消えていく。
時折り霧雨がよぎるようになり、土地に草が戻りはじめたとはいえ土地は乾いている。
兵舎の一室を宿として提供され、兵の案内で貯水池へお嬢は向かう。俺たちには俺たちが冒険者として違和感ない服装装備を購入しておくことと屋台を見繕っておいてと言い置いて。
「メイリーンの主武器は?」
「魔法の発動媒体が有れば使いやすいけど、今のままでも不自由はないわ」
お嬢が選んだ服だし、意外に頑丈な生地らしい。
俺は……、もう少し頑丈なズボンがいいかな。
「で、アンタの主武器は?」
主武器。
人に問うておいてなんだが使えそうだなと思う武器は棒、剣、槍、槌……意外に節操なしである。
「棒が有ればなんとかなりそうだな」
「あー、物干し竿」
まぁ、悪くない。多少は短くなるしな。
「あ。お嬢さまが水を流した」
わかるものなのかメイリーンが目を細める。
「え。アンタわからないの? 凝った魔力が溶けだす心地良さがわからないなんて。なんて鈍感」
余計なお世話だ。
「焼き菓子や肉の屋台も有るし、魔道具の店もあるみたいね。この辺りまでは錬金術師のポーションも取り扱っているのね。魔法薬は使用期限が難しいから」
魔法の力は望んだようには留まり難く回復系のポーションは時間経過無効のストレージバッグにでも入れない限りは十日程度しかその品質を保てない。
遠征に行くには無用の長物である。
「メイリーンはつくれないのか?」
ちなみに俺は作れない。
「どうかしら? 機材がかなり必要だということはわかるわよ。素材もね」
なるほど。だから高価なのか。
ズボンと革ベルトを数本、予備のマント、採取物を入れる布袋とザルをふたつ買っておく。
「さすがにストレージバッグは売ってないわね」
魔具を扱う店にもなかった。
店の親父が笑いながら「ストレージバッグが欲しけりゃコドハンだな。コドハンで出たストレージバッグは迷宮管理局でのみ取り扱いさ」と教えてくれた。
「ジェフ! メイリーン!」
店を出るとお嬢が小走りに手を振っている。
転びそうで不安だ。
兵舎に戻るまでに屋台の買い食いに走るお嬢がいた。
子供用のナイフ。……危ないのでストレージバッグの肥やしにした。
子供用の槍。……危なっかしいのでストレージバッグの肥やしにした。
子供用の弓。……弓の弦で怪我をしそうだったのでストレージバッグの肥やしにした。
棍棒。とりあえずお嬢でも使えそうかもしれない。
獣の腸詰の串焼き。
赤麦パン。
鳥肉の串焼き。
果汁。麦汁。
ピレトマイアやグロースでは見られぬ品数。
お嬢が同じような串肉の店を渡り歩くから俺もメイリーンもついでに案内の兵士もおなかいっぱいになった。
小迷宮の街コドハンの方がより品数が多いんだろうな。
お嬢はけっこう無駄買いが多いが、止めるべきかどうか悩むところである。
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