第6話 バスケ部2
バスケットボール部編
昼休みの校内放送は文化祭二日目のためか、いつもより音量が大きい気がした。
記録係という肩書きは、校内で“ちょっと関わってくれそうな先輩”というちょうどいい立ち位置を与える。
年齢は上でも、役割は下へ潜り込む。
見られるのは女子生徒本人じゃなく、あくまで部活。
部活の為の撮影、だから気まずさもない。
体育館はすでに熱を帯びていた。入口の上には水泳部にも園芸部にもなかった大きな横断幕
「パスでつなぐ笑顔と友情」の文字
部員みんなの手作りらしく、蛍光テープで縁取られている。
バスケ部の文化祭衣装はシンプルだが情報量が濃い
上はノースリーブのゲームシャツ型ユニフォーム。
カラーはネイビーを基調に、サイドにミントグリーンの切り返しラインが走る。
ロゴは胸中央に「SEIRIN BASKETBALL」その下に小さく番号。
フォントは角ばったデジタル電光掲示板風で、影付きプリント。
生地は速乾ポリエステルのメッシュ編み、近づいて見ると六角形の通気ホールパターン。
脇の開きは広すぎず、腕の可動域を確保するカットになっているが、そのため彼女たちが横を向くたびに一瞬だけ下着の色が見えるようにもなっていた。
彼女たちはあえて黒の下着を選ばないようにして大胆な個性を出していた。
背面には部員それぞれのネームと番号。書体は大胆なブロック体で、光に反射する半ラバープリント。
動くと薄く光沢が揺れ、汗で湿ると数字の輪郭だけが先に濃く見える仕様。
チームで揃えたユニなのに、番号の付き方や色の濃淡で個性が出ていた。
下は膝上のゲームショーツ。
シャツと同じ濃紺に、太もも外側にミントの太ライン、ライン下端はジグザグではなく直線カット。
裾はほつれ防止、腰のゴムは強めで、コートダッシュで“紐いらず”を謳っているのに、文化祭では「あえての白い平紐」が飾りで貫通している。
実際のサイズ調整ではなくデザイン演出の紐だ。
彼女たちの中には、通気性と伸縮性を高める目的でショーツのサイドに切り込みを入れるものもいた。
足元は白基調のコートバッシュ
ソールは体育館グリップ特化のヘリンボーンパターン
今年のモデルは一般部員用でカラーの指定なしだが、みんなシューズ横の「部章シューレースアクセ」だけは揃えていた。
小さなボール型チャーム。
深緑の園芸部とはまた違うミントカラーで、動くたびに小さくカチャカチャと鳴って、演奏でも道具でもなく、“焦りのベル”*みたいで妙にバスケ部に馴染む。
「先輩! 今ちょっとだけ近くで撮ってもらえません?」
声をかけてきたのは、瀬名さん。
派手さで人気のタイプだが、体育倉庫の床にしゃがみ込み、シューズのかかとガードのズレを直しているところだった。
普段なら後輩の誰かに丸投げするキャラなのに、今日だけは自分で道具を分析している。
これも記録対象の一つになりそうだ
「かかとのパーツ、少し浮いてる。踏み込みで違和感ない?」
「え、なんでわかるんですか?」
「撮るときは“接地と重心”を見る癖があるんでね」
「あー…それ、ガチじゃん。記録係の先輩っぽい」
笑っているのに素直に尊敬が混じる。
俺はカメラを構え、体育館フロアを背景に撮る。
彼女は立ち上がる。汗がミニバスケットみたいに床へ一点落下した。
彼女たちをただ“かわいい”と撮るだけの仕事なら、ここまで続けられなかった。
でも、意外な一面を引き出す視点で撮ると違う。
それは執着じゃなく発見。アプリより現場が俺を催眠している。
動画はぶれない距離で撮り、走りは真剣に追った。
スコアシートは自分用じゃなく、来場者が見たくなる部の参考資料として整理されている。
誰もSNS用に加工しない。圧を外へ投げ渡している。
見たいのはチームの未来より彼女の今の姿だからだ。
僕は時々自分用のSDカードを差し込んで彼女たちを自分なりの角度から撮った。
文化祭の熱はまだ逃げない。次の部へ回る時間だ。
文化祭潜入録 〜催眠アプリで潜入したら女子にモテすぎて困ってます〜 村上夏樹 @dansonjohihou
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