罪人賛歌・序

 ――ばちんっ。


 乾いた音が頭を貫き、一拍置いてじんじんと頬が熱を持つ。

 それは、戦いが終わった後のこと。

 衰弱状態から回復したネルヴィ姉さんが、俺の顔を見るや否や、頬に平手ビンタを見舞った音だ。


 姉さん俺に手を上げるのは、これが初めてのことで。

 俺が驚愕から脱するのも待たず、姉さんが俺の肩を掴んで揺さぶるように叫ぶ。


「どうして戻って来たのです、レイワード! を持って逃げなさいと、絶対に戻って来ては駄目よと、そう言ったでしょう!? あやうくあなたまで、あの男に殺されるところだったのですよ……!?」

「姉さん、それは――」


 俺にも言い分はあったが、すぐに言葉が詰まる。

 ぽろぽろと。

 姉さんの目から零れた大粒の涙が、俺の身を案じる感情の結晶だと理解できて……俺は、何も言えなくなってしまった。


「あなたが……! あなたがきっとやり遂げると、そう信じていたから、わたくしはどんな苦しみにも耐えられたのに……!」

「……ごめん、姉さん」


 縋りついて来たその体を、丁寧にぎゅうと抱きしめる。

 ただそれだけが、今の俺にできる精一杯の誠意の示し方であった。


 俺が姉さんの身を案じ、地獄の底からここまで舞い戻ってきたように。

 姉さんもまた、俺が上手く逃げ切れることを願い、絶対に戻って来ぬようにと祈っていたのだ。

 結果的には、ふたりとも五体満足で生き残れたけれど……俺がしたことは、姉さんの願いと祈りへの、手酷い裏切りだったのかもしれない。

 それでも……俺は嬉しかった。姉さんの体に、未だ命の熱が燈っていることが。例え亡者の命が本物ではないとしても、刑罰を受けるためだけの仮初の命だとしても、醜い自己満足だとしても……それでも、泣いてしまうほど嬉しかったのだ。


 ただ……俺たちにとって涙する程の再開は、にとっては違ったようだけど。


「……おい。黙って見ていれば、貴様ら一体何の話をしておる? 私にも分かるように話せ。というかさっさと『腕輪』の場所を教えろ。そういう契約だったであろう」


 扉すらない家の入口。

 そこに背を預け、つまらない茶番を見たとでも言いたげに尊大な口調でそう言うのは、銀髪金目にして異形の美女――アダマリア。

 彼女は角にひっかけた髪のひと房を手持ち無沙汰に指先で弄りながら、ぺしぺしと尻尾で地面を叩いて苛立ちを示す。

 そんな、どんな獣人とも異なる姿、どんな芸術よりも美しい彼女の姿を見て、姉さんは涙を拭い問いかける。


「ええと。失礼ですが、あなたは一体……」


 きょとん、と首を傾げる姉さん。

 そうだ、コーダウとアダマリアが戦っている時、姉さんは拷問の後遺症で意識が朦朧としていたのだ。それでアダマリアのことを覚えていないのだろう――なら、改めて。


「ああ、紹介するよ姉さん。このひとはアダマリア。彼女は地獄の底に墜ちた俺を助けてくれて……それで、その」


 ああ、そうだ。アダマリアに関して、姉さんに言わなければならないことが、ひとつ。


「凄い勝手なんだけど……彼女とは、俺たちを助けてもらう代わりに姉さんの『腕輪』を渡すって、そう約束したんだ。いい、かな」


 姉さんが天から授かった『無私の腕輪』。

 それを無断で報酬としてしまったことをばつが悪いながらも白状して……けれど姉さんの意識は、その前の段階で引っかかっていた。


「待ちなさい、レイワード。『地獄の底』? どうしてそんな話になるの? 一体どういう……」

「あー、えっと……アダマリア、一から説明してもいいかな」

「……ま、よかろう。別段急いでいる訳でもないしな。道化の演目にくらい耳を傾けてやろうではないか。せいぜい、多彩な弁舌で私を楽しませるがよいぞ」


 アダマリアも許してくれたので、俺は姉さんにここまでの顛末を語る。


 賊――コーダウの手によって、絶死と謳われる地獄の底に墜とされたこと。

 そこでアダマリアと出会い、姉さんを救うため『腕輪』を使って交渉したこと。

 そしてアダマリアの力で地獄の底を脱出し、強敵コーダウをも撃破したこと。


 そこまでを訥々と語れば……横で聞いていたアダマリアが、うげえと苦虫を嚙み潰したような顔で口を挟んだ。


「……貴様、致命的に詩吟の才が無いな。本当に無いな。頭痛がするほど無いな。分かり難いとか以前の問題だ……退屈で耳が腐るかと思ったぞ……」


 う、確かに口の上手さに自信はないけれど……。

 でもアダマリア、姉さんはすっかり理解してくれたみたいだぞ、ほら。


「そ、そんなことが……ありがとうございます、アダマリア様。弟を助けて下さって」

「いや、なんで貴様は理解できておる!? なんで名作冒険譚を聞き終えたみたいな顔をしておるのだ!? 今の話で満足するとか、聞き手としての驚異的才でもあるのか!?」


 そこはまあ、伊達にたったふたりの家族はやっていないということで。


「……それで、姉さん。今言った通り、アダマリアに『腕輪』を渡す約束なんだけど……」


 遠慮がちに言えば、姉さんは普段通りの、ぴっと背中に芯が通ったような見事な姿勢で、達人の剣戟のように美しくすっぱりと言い切る。


「――構いません。その『腕輪』はあなたのものだと言ったでしょう、レイワード。あなたがあなたのものをどうするかは、あなただけが決められることです。それが必要だと言うのなら、わたくしに遠慮などせずやりなさい」

「……ありがとう」


 嗚呼、いつもの姉さんだ。清く、優しく、そして正しい。


 ともかく、赦しは得た。

 今の話も聞いていたのだろう、アダマリアが再び口を挟む。


「で。肝心の『腕輪』はどこにあるのだ? あの賊らは終ぞ見つけられなかったようだが、そうとう上手く隠したのか?」

「それなんだけど」


 彼女の問いに答える代わりに、俺はを腕から外した。

 それは、手枷だ。粗製の金属で作られたと思しき、錆び付き汚れた片輪のみの、どこにも繋がっていない手枷。アダマリアと邂逅したときから、いや、集落を飛び出した時から、ずっと俺の手に嵌まっていたもの。

 それを掴んで差し出し、言う。


「――これが、『無私の腕輪』だ」


 ちゃり、と千切れた手枷の鎖が音を鳴らす。

 目の前に差し出されたそれを見て……当然、アダマリアは眉を顰めた。


「……貴様、私を謀る気……ではないようだな、不実の気配はせんし。では本当に気でも狂ったか? これは、ただの壊れた手枷ではないか。

 確かに私は『腕輪』の形など知らんし、手枷も腕輪と言えば腕輪の一種なのだろうが……本当に神が遣わした『腕輪』なら、強い聖気を感じさせるはずだろう。だが、この手枷から聖気は、天上の父の力は感じんぞ?」


 嗚呼、それは当然の指摘だ。

 だが、百聞は一見に如かず……これはきっと説明するより、直に見せた方が早い。


「姉さん」

「ええ」


 俺の意図を酌んでくれたのだろう。

 姉さんが俺の手に、握った『手枷』に手を添わせる――。


 瞬間、手枷が強い輝きを放った。

 否、それは輝きそのものに成ったのだ。


「――!」


 刮目するアダマリアの眼前で、鋳溶かした金属が流動性を持つように、発光体となった手枷の形が変わっていく。

 そして、次第に光が収束して……俺の手の中には、先のみすぼらしい手枷の面影を殆ど残していない、綺麗な『腕輪』だけが収まっていた。

 腕輪に刻まれた文字は『無私』。それはそのまま、腕輪が冠する美徳の――あるいは腕輪に触れた姉さんが有する美徳の名だ。


 その変貌を目の当たりにして、さしものアダマリアも閉口した。

 全てを見透かすような金の眼の彼女も、まさか『腕輪』を俺がずっと持っていたとは思わなかったのだろう。

 いや、彼女が騙されるのも仕方ないことかもしれない。魔眼を有するコーダウでさえ、汚れた手枷の正体が、欲する『腕輪』だとは見抜けなかったのだから。

 けれど、アダマリアが驚愕から復帰するのは早かった。そのたった数秒の沈黙で、彼女の金の眼は『腕輪』の仕組みを理解してしまったらしい。沈黙していた口が、ふむ、と呟く。


「……なるほど。美徳を持つ者を『腕輪』が選ぶという話だったが……恐らく、冠する美徳を持つ者に触れている時だけ、その『腕輪』は覚醒状態となる、ということか。

 ふむ、寧ろ好都合だな。これほどの聖気、罪たる私が触れれば皮膚が爛れる」


 彼女の言う事は当たっていた。

 姉さんが『腕輪』から手を離せば、途端にそれは元の薄汚れた手枷に戻るだろう。

 それこそが、この『恩寵争奪』で奪い合う八つの『腕輪』の隠されし特徴にして、姉さんが頑なに『腕輪』の在処を吐かなかった理由。


 実のところ。

 賊の襲撃から逃げるとき、俺はその時点で既に姉さんから『腕輪』を託されていた。

 本来の所有者ではないが故に『腕輪』をただの手枷に偽装できる俺が、それを持って逃走したと知られれば、賊は俺を追ってしまう……だから姉さんは耐えたのだ。『腕輪』をどこかに隠したと思わせ、俺がそれを持ったまま逃げ切るための時間を稼ぐため。

 ただ実際には、姉さんの奮闘虚しく俺は地獄の底に墜とされてしまった訳で……まあ、あの段階でコーダウに手枷の正体を見抜かれていれば、状況がもっと悪くなったことなど想像に難くないので、どのみち姉さんの忍耐は無駄ではなかったのだろうが。


 そんな俺の内心など、最早気にする余裕もなく。

 眼前の輝きに魅入られたように、アダマリアが『腕輪』に指を伸ばす。

 纏う聖気に触れて、ちり、とその指先が焼け焦げたのが分かった。俺たちにはない、神話の悪魔じみた肉体の反応。けれど、彼女はそれすら恍惚の薪として壮絶に笑んで見せたのだ。


「嗚呼、天上の父の気配をこれ程近くに感じるのはいつぶりか――この『恩寵争奪』、どうやら眉唾ではないようだな。この強大なる奇跡の気配……確かに八つ集めれば、亡者の現世への受肉、死者の蘇生にも届き得よう」


 それは、確信を得たがゆえの笑い。

 『恩寵争奪』とは、全ての『腕輪』を集め、収集した奇跡の力を束ねることで亡者の魂を現世へ受肉させる儀である、と。

 即ち。

 これならば――例え地獄の底で生まれた罪の化身であっても、現世に這い出ることができるだろうから。


 逆光に照らされた笑みは、人間離れしたアダマリアの美貌を以てして尚、余りに邪悪であった。

 コーダウとの戦い、その序盤で見せた暴虐の面貌。

 その笑みに臆してしまったからだろうか。

 それとも、聖気を害とする彼女が邪悪な存在であると直感させられたからか。

 俺は命の恩人たる彼女へのお礼を、また言いそびれてしまったのだった。





《center》◆◆◆《/center》





 地獄とは地底の獄。

 閉ざされたうろの世界には、太陽も月もやってこない。


 だが……そんな地獄にも、昼夜はある。

 陽光など決して届かない地の底ではあるが、昼夜によって一日は回っているのだ。

 昼間は明るく。夜間は暗く。

 なぜ陽のない地獄にも昼夜があるのか、誰も知らない。現世から影響を受けているのだと語る者も居るが、本当のところは誰にも分からないのだろう。


 そして、今地獄の全土は、薄い夜闇に包まれていた。

 天に星明りなどない、ただ暗いだけの夜。

 食事・性交に次いで睡眠をも取れない亡者にとって、そんな夜とは静かな拷問の時間だと語られる。

 睡眠とは安寧なのだと。それを味わえないということは、精神を徐々にやすりで削られていくのと同じだと。

 その点、俺は運が良かったのだろう。そもそも生者だった記憶がないから、睡眠の感覚を知らないし……姉さんや優しい亡者たちが、常に色んなことを語ってくれたから。

 そうだ。俺にとって夜とは、誰かの話を聞く時間だった。

 そして、今は――。



 悪鬼の巡回ルートギリギリにある、少し前に見つけた廃墟。

 集落から程近いその場所で、俺とアダマリアはふたりきりで焚火を囲んでいた。

 『腕輪』の説明が終わった後。程なくして夜が来て、アダマリアは「ついて来い」と俺のみを集落から連れ出した。逆らうわけにもいかず、俺は彼女に従い。そしてたまたまここを見つけ、腰を落ち着け火を起こしたのだ。


 ぱちぱちと、夜闇に抗うように焚火が周囲へ火の粉を散らす。

 焚火、と言っても、悪政獄に薪になる木などない。これは何か想像もできない力で生み出された、薪もなく燃え続けるただの炎だ。

 そんな炎を生み出した張本人は、焚火にあたる俺の視線の先……石組みの廃墟、崩れかけの柱の上に腰掛けていた。

 アダマリア。彼女が上に乗るだけで、石の柱がまるで玉座だ。そうやって尊大に立てた膝の上に、退屈そうに頬を乗せ、彼女は物憂げに彼方を睨んでいる。

 何気ない横顔、伝え聞く月のように夜闇に映える銀の髪は、どんな吟遊詩人バードでも言い表せないだろうと思えるくらいには美しくて。

 けれど、俺が気にしたのは別の事だった。


「……意外だったな。アダマリアは夜とか気にしないと思ったけど」


 そうだ。あれだけの強さを持つ彼女であれば、夜闇など気にせず活動しそうなものだが。

 実際は火を起こし腰を落ち着けたまま何もしない彼女は、目だけを動かして俺を見た。流し目、と言えば聞こえはいいが。実際は動くどころか首さえ向けない、随分とな仕草であった。


「なんだ、私が『腕輪』を集めるために昼夜を問わず奔走すると思っていたのか? 相も変わらず愚かよな、小僧。貴様ら人間はすぐ生き急ぎ本質を見失う……分からんか?

 この『恩寵争奪』、既に急ぐ必要などないのだ。『腕輪』が我が手元にある以上、誰ぞが七つを揃えようが意味は無い。まだ八つ目の腕輪さえ現れておらんらしいしな。

 故に、わざわざ闇深き夜にせかせかと動く必要などないのよ」


 石柱に腰掛けたまま、ほとんど動きを見せないアダマリア。

 事実、彼女の言う事は正鵠を射ている。『恩寵争奪』は八つの腕輪を集めるための戦い。途中経過がどうであろうが、最後に八つ揃えた者のみが勝者なのだ。そしてそのうちのひとつが手元にある以上、他の誰かが知らずの内に勝利する、なんて展開はありえない。

 そのうえ、まだ『腕輪』は出揃っていないと来た。今出現が確認されている『腕輪』は七つ……あとひとつの出現が確認されるまでは、どれだけ急いだって無駄だろう。


 だが、俺が言ったのは『恩寵争奪』そのことについてでは無かった。


「いや、そうじゃなくて……ただ、きみが何もせずぼーっとしてるのが意外と言うか」


 桁違いの強さを持つ彼女が、夜闇など何の障害にもならぬだろう彼女が、何をするでもなく夜明けを待っている。

 その仕草が不思議だった。

 

 現世の記憶を持たぬ俺だからだろうか。そのことが、不思議でならなかったのだ。


 そんな俺に、アダマリアは昼間のそれよりもだいぶ気だるげな冷笑を浮かべた。


「は――私が怠惰を好まぬと? 逆だ。怠惰を好まずして何とする。

 生命とは、休息なく走り続けられるようには出来ておらん。傷付かぬ肉体が無いように、疲れぬ肉体も存在せん。いや、例え肉体が無敵であろうと、精神、心は摩耗するであろう。精神力にも強さ弱さはあるだろうが……削れぬものを心とは呼ばん。

 私含め、疲れ傷付かぬ生命などおらぬ。

 ならば、自らを癒す手段を愛さずして、一体何を愛すると言うのだ。

 それにそら、怠惰は罪の味と言うだろう。我が身は罪の化身ゆえ、その味の愉しみ方もいっとう心得ておるのよ」


 彼女のその姿に、俺は再び『罪』を見た。

 コーダウと戦った時の、竜の『高慢』さとはまた違う罪。

 その名は――。


「……聖典に記された八つの大罪のひとつ、『倦怠』だっけ」

「ああ。それもまた、我が身を構成する八つの罪のひとつだとも。故に、我が身が勤勉ならぬのも仕方ないことだと理解せよ」

「うん……あれ、でも。『倦怠』って単純な怠惰ってより、神様への信仰を怠ることを表してるって、そう姉さんは言ってたような……」


 又聞きの聖典の知識を思い出せば、むぐ、なんてアダマリアは言葉を詰まらせ。

 普段の傲岸で明朗な口調が、歯切れの悪い言い訳めいた口調にすり替わる。


「……まあ、それも習合の結果ではあるが……その通りではある。我が身の一部たる生ける屍アンデッドも、『神への祈りを忘れたが故にそう成り果てた』と古くより信じられた結果、『倦怠』の象徴とされた存在であるし、な」

「ええと……じゃあアダマリアがのんびり屋なのは、元々の性格ってこと?」


 問えば、じろりと不満の視線が飛んで来た。


「……おい、私にそんな気の抜けた評を与えるでない。不敬であるぞ」

「不敬って、そんな大袈裟な……」


 昼間なら間違いなく殺気のひとつは飛ばして来ただろう反応だが、その身に宿った『倦怠』のせいか、今は微妙に力が抜けている。

 そのせいだろう、こちらの口も相応に軽くなっていて。

 ふと、頭に浮かんだ疑問が言葉になった。


「というか、実際アダマリアって何者なんだ? 凄く強いのはもう分かったけど……どうしてきみはあんなに強い? あの『首腕』というのは魔法なのか? きみは自分の事を『大罪の化身』と言うけれど……それは一体、どういう意味なんだ?」


 『アダマリアとは何者なのか』。

 それは、俺の中でずっと渦巻いていた疑問。

 始海竜レヴィアや人面蛇メドゥラが強いのは分かる。それは伝説上で語られる怪物だから。かの怪物たちの強さ恐ろしさを、俺は神話を通して学んでいる。

 だが……『アダマリア』という怪物の名前を、俺が耳にしたことはない。八体の伝説の怪物を宿した恐るべき魔王など、それこそ有名な伝説となっていそうなのにも関わらず、だ。


 だから本人に直接問えば……彼女は少し閉口してから、悩むのもばからしいとばかりに覇気の薄い声で語り始めた。


「……別に、そのままの意味よ。我が身は罪の受け皿、人が恐れ忌避した罪そのもの。

 高慢、憤怒、倦怠、嫉妬、邪淫、虚栄、強欲、裏切り……現世にて最も広まった聖典、そこに記されし『八つの大罪』。それらに向けられし怯懦・畏怖などの負の想念が、地獄の底にておりのように集積された果てが我が身である。

 故に、この身は人類史上全ての罪悪の集合体と言ってもよい」

「想念が集積された果て――全ての罪の、集合体」

「その通り……む、規模が大きすぎて分からんという顔だな。まあ、そうさな。最低でも、『世界を我が身ひとつで滅ぼせる』程度の強さはあると理解せよ」


 何でもないように語られるのは、しかし俺では想像もできない規模スケールの話で。

 何千年、あるいは何万年と続いてきたヒトの歴史……その全ての罪が集約したというのなら、それはどれほどの恐ろしさを持つのだろうか。

 ……いや。『想像』はできなくても、『予想』はできるかもしれない。


 例えば、だが。

 ヒトが生まれてから今まで、発生した殺人の総数はゆうに一億を超えているだろう……それくらいは、姉さんの話を通じて朧気ながら理解している。

 ならば、逆説的に考えれば。

 罪の集合体たるアダマリアとは、その一億を超える人間を殺害できるだけの力を持つのでは――?


 背筋に奔った怖気とは、きっと恐怖に他ならなかった。

 億。想像力を麻痺させるその数字が、不可視の圧力となってアダマリアから放たれたような感覚。それが俺の身を竦ませて。

 そして、彼女は――。


 くあ、と。

 小動物みたいに可愛らしく欠伸をして、気だるげに自分の指先に目線を投げた。

 嗚呼、なんとも……人間めいた、仕草。


「ん。そして首腕とは、だったな。

 アレらは我が真体の首にして腕……要するに、ただの肉体の一部だ。奇天烈な魔術魔法の類ではない。

 腕を動かすのに魔法が要るか? 私にとって八体の怪物の首は、貴様らでいう手足に過ぎん。そら、私の本当の姿は、貴様も知っているだろう」


 なんだか気が抜けてしまって。問いかけられてもすぐに反応できなくて。

 じろり、アダマリアがこちらを不満げに睨む。


「……おい、聞いているのか? 尋ねたのは貴様であろうが」

「ご、ごめん。ちゃんと聞いてるよ」

「ならよいが。余りたわけが過ぎると殺すぞ」


 ……きっと、怖がるべきなんだろう。ヒトとして恐れるべきなんだろう。

 けれど、さっき俺を襲った怖気は、なんだか戻って来る気配がなくて。

 誤魔化すように、俺はアダマリアへ言葉を返した。


「えっと、あの八つ首の巨体がきみの本当の姿、なんだよな……じゃあ、今の姿は一体?」

「……うむ。まあ、我が第五首腕の能力とだけ言っておこう」


 ふい、と。何が不満だったのか、はたまたただの気まぐれか、彼女は鷹揚に言って首を背けた。

 その様に、俺は……のんびり屋ってよりはなのかな、なんて、口にすれば怒られそうな考えを抱いて。


 ゆらゆらと、焚火が揺れる。

 不意に下りた沈黙に、俺が居心地の悪さを感じてしまうのは……アダマリアが何を考えているのか読みにくいというのもそうだが、言わなければならないことがあるからだろう。

 ……そうだ。俺はアダマリアに、それを言わなければならない。

 

 沈黙に抗うように、やけに重くなった口を開く。


「……アダマリアは」


 名を呼ばれ、金の眼がこちらを振り向く。

 それに少し驚いてしまって……だからだろう。

 俺の言葉が、遠回りを選んでしまったのは。


「アダマリアは、どうして生き返りたいんだ?」


 そんな俺の問いを受けて。

 アダマリアは、心底呆れたと溜息を吐いた。


「は――貴様、本物の阿呆か? 地獄に堕ちた亡者の中に、生き返りを望まぬ者などひとりとしておるまいよ」

「そうだけど、でも……他人の命を奪ってでも生き返りたいか、ってなると、話は違うと思う。それはあの男、コーダウみたいに……現世でやりたいことがある、ってひとだけなんじゃないのか」


 そうだ……俺が、アダマリアが彼を殺すことを快く思えなかったように。

 確固たる目的がある者だけが、この『恩寵争奪』に参戦するのではないか。それ以外の者は、略奪や殺人という罪悪を忌避し、戦いを避けるのではないか。

 つまり、アダマリアにも……他人を殺してまで生き返りたい、強い目的があるのでは。


 そういう意図を込めての問いを、しかしアダマリアは鼻で笑った。

 否、それはもっと強い否定だ。唾棄すべき問いだ、と言いたげに、その眼光はこちらを睨む。


「甘いな。ヒトの欲望を甘く見過ぎているぞ、小僧。

 ……ああ。確か貴様、現世の記憶を持たぬのだったか……ならば、それも仕方のないことか。貴様は『生者』の姿を知らんのだからな」

「え? 生者って――現世の人間ってことか? そんなの、別に亡者と同じだろ? 亡者は現世で死んだひと、なんだから」

「違うな。亡者とは、己が死人であることを知っている。何の希望もないまま悪鬼に甚振られ、虐げられ、結果全てを諦めている。食いも眠りも犯しも全て出来ぬが故に、それらの欲望さえ忘却している。そんなものは、生者と似ても似つかんよ」


 語りながら、アダマリアは遠い目になった。

 その口調からは険が取れ、代わりに花を愛でるような穏やかさが備わっていく。

 ああ、その様はまるで……どこかネルヴィ姉さんに似て。


「生者こそが人間だ。たった一度の人生を懸命に生きる、果てなき欲望の征服者たち――それこそが貴様らの生前、貴様ら人間の真の姿だ。

 奴等は何も諦めん、何ひとつ諦められん。食う為に奪い、眠る為に殺し、犯す為に生きる。自らの欲望を満たす為なら、人間は文字通り

 そして――その欲望が衝突することで生じるのが罪、即ち争いよ。この『恩寵争奪』のようにな」


 姉さんに似ていたその声は、けれどどんどんと温かみを失っていって。

 女の声は、今や老齢の賢者を思わせた。

 争う人間たちを崖の上から眺めているような、超然とした語り口調。

 そして彼女の金色の瞳は、俺の内にある心胆を射抜くように。


「貴様が今まで見て来た亡者の優しさとは、欲望を奪われた故の諦念の境地、まやかしの隣人愛に過ぎん。

 だが、今地獄に希望は放り込まれた。欲望を呼び起こす、『生き返り』という劇薬の希望が。

 これから貴様は見るだろう……底無しの欲望を抱き、生前の姿へと回帰した亡者どもの、恐るべき業と所行おこないとをな」


 そこに嘲りの色はなかった。

 なかったからこそ、彼女の内心の確信が強く伝わって来て。


「……アダマリアは。人間の本性が悪だって、そう言うのか?」

「欲望を罪悪と呼ぶのなら、な。欲望こそが人間だ。それを持たぬ者はヒトとは呼べん」


 それは断言、強い断定。

 アダマリアにとって、人間の本性は悪だと言う。

 欲望こそが人間だと。

 亡者とはヒトの本来の姿ではなく。生者は、ヒトとはもっと醜悪なのだと。


 アダマリアは1000年は生きていると言った。その存在自体がヒトと大きくかけ離れている以上、現世の記憶があるのかどうかは分からないが……少なくとも、俺よりは世界を知っているのだろうことは明白で。

 だから、詰られたような気分になっても、俺に反論なんて出来なくて――。


 けれど、俺はすぐに俯いていた顔を上げることになる。

 何故なら、彼女はこう続けたのだから。


「だが、おかしな話よ。何故、貴様は欲望を罪悪として忌避する」

「え……だって、欲望が争いを生むんだろ?」

「そうだ。だが、欲望が無ければ人は生きていくことさえできん。野を歩く獣を山と積んでも尚足らぬ、底無しの欲望があったからこそ、人間は霊長にまで発展したのだ」


 彼女は言う。欲望とは力であると。

 他人と争う程の力が、厳しい生存競争の中でどれほどの力になったのかを。


「腹を満たすまで食いたいという欲が、野に種を蒔き命を育てた。

 安心して眠りたいという欲が、万人を団結させ街さえ造った。

 他人を求める欲でさえ、種を次代へ繋げるには必要なものだ。

 そう、怠惰がヒトを癒すように……欲こそがヒトを生かしたのだ。欲望という心の薪が、他の種が持ちえぬ底無しの原動力こそが、地上より人間種の敵を駆逐し文明を発展させたのだ。ヒトが全員欲を捨て聖者の真似事をしてみろ、そんな愚かな種族などは、瞬く間に自然に滅ぼされるであろうよ。つまり、欲望とはそれほどの力だ。

 ならば何故、欲望ソレを嫌悪し忌避せねばならん。罪であるからか? 悪であるからか? ならば私はこう言おうぞ――」


 そして、アダマリアは。

 コーダウとの戦いで見せた、喝采めいた強い声で言う――。


「――生きるとは罪を犯すこと。

   罪であると知って尚、世界へ、運命へ手を伸ばす事こそを生と言う。

 その罪に報いはある。終着は、清算の刻は必ず訪れる。それでも臆し手を引くならば、それは死体と同じ選択よ。即ち、貴様が貴様である意味が無い。

 よいか――人の身に赦されしは、罪を犯すか、犯さないかの二択を選ぶことではない。

 自らの手を染める罪を、自らで選び取ることだけだ」

「生きるとは、罪を犯すこと……」


 ほとんど忘我で反復すれば、アダマリアは満足げに頷いた。


「そうだ。そも命とは、他者を喰らって輝くものだ。何人もその摂理から逃れることはできん。全ての命は、他者の利益を、尊厳を――生命を侵害しなければ、永らえることさえ赦されぬ」

「それは、俺も……?」

「は、当然であろう。亡者だから、何も食らわんから罪がないなど、笑わせる。

 例えば貴様の姉よ。アレは他者の心を救う力があると見たが」

「え? あ、ああ。姉さんは俺の心の支えだ」

「ならば、その力で以て貴様以外の誰かを救うこともできたであろう。奈落に身を投げる亡者を踏み止まらせたり、な。だが、奴はそうしておらん。それは何故か?

 簡単だ。他ならぬ貴様を救うため、救えたであろう他の誰かを見捨てたからだ。小僧、貴様もまた、他者の受けられたであろう恩恵を奪うことで生きている。それを罪とせずして何とする?」

「あ――」


 正に青天の霹靂であった。

 そうだ、確かに姉さんならば、俺以外の誰かであってもその正しさで救うことができるだろう。

 だが、姉さんはそうしない……俺のために。

 何故なら、個人の手の届く範囲、救える数には限りがあるから。

 姉さんは自力で救える枠に俺を入れ、他を取りこぼすことを選んだのだ。

 嗚呼、一体どうして、俺はこんな事にも気付けなかったのか。

 俺を救うために、どこかの誰かの救いが消えたかもしれない、と。

 俺を生かすことで、どこかの誰かが死に追いやられたかもしれない、と――。


 だが、と。

 その声は、俺の外より響いた。


「だが、勘違いするでないぞ。それは決して間違いではない。選ぶことも、選ばれることもな。

 貴様の落ち度は、罪を知らぬこと――ただその一点のみよ」


 アダマリアは言う。

 俺の悪しきとは、姉さんの救える枠を独占した事ではなく。

 ただ、そのことに今まで気付けていなかったことの方にこそあると。


「肝に銘じよ、小僧。

 罪と知らぬまま漫然と生きるのでは、そこらの野を這う獣と変わらん。

 罰をおそれ清廉さを求めるのであれば、何も成せんまま自滅すればよい。

 罪と知りながら、罰が待つと理解しながら、それでもと――と自ら手を伸ばすことこそが、『人として生きる』ということだ。

 他者を護るため別の他者を傷付け、他者を満たすため別の他者から奪い、他者を愛するために別の他者を憎む。悍ましい矛盾、愚かしい欺瞞と叫ぶ声もごまんとあろうが……私に言わせれば、それこそがヒトの持つ真の強さ、真のさかしさにして、誇るべき真の勇気よ」


 言い切る声は、深い確信の意志と共に響いて。


 だから、アダマリアはコーダウに喝采を捧げたのだろう。

 彼が『腕輪』を奪おうとしたのは、自分が生き返るためだった。

 俺や姉さんを殺そうとしたのは、最愛の妻を救うためだった。

 それが罪であると知って尚、彼は「これだけは譲れない」と手を伸ばした。

 ――生きることが罪であるのなら。

 誰に糾弾されようとも、自らの愛と決意のため臆さず戦った賊の姿に、アダマリアは彼女にとってのヒトの輝きを見たのかもしれない。


 そして、俺も……それが丸っきり間違いだとは思えなくて。

 

 言葉を咀嚼するように閉口した俺。

 そんな俺の様子に構わず、アダマリアは思い出したかのように尋ねてくる。


「……というか。何故貴様は、私が生き返る理由などを問うたのだ?」


 そうだ……始まりはそんな問いだった。

 問いを投げかけておいて自分だけ答えないというのは卑怯だろう。そんな理由で、俺は観念して正直に答える。


「……きみが現世を滅ぼす力を持つことは、俺にも何となく分かるよ。だから、現世に蘇って何をするのか聞きたかった。もしかしたら、きみは悪いひとじゃないかも、なんて思って」


 ……最初の問いは、つまるところ、祈りだ。

 アダマリアが本当はなのでは、なんて、どこまでも身勝手な祈り。

 けれど、否。

 やはり、彼女はそんな都合のいい存在ではなくて。


「は――愚かよな。剣が何故作られたかと問う程に無意味な問いだ。改めて口にせねば分からぬか?」


 嘲る声に、けれど頷く。


「……ああ、その通りだ。きみの言う通り、俺は愚かだった。きみが善いひとか悪いひとかなんて、きっと関係なかったんだ。

 だって、きみは姉さんを救ってくれた。俺の願いを聞いてくれた。世界のことを、人間おれたちのことを、教えてくれた。

 だから、俺は愚かだったんだよ。きみがどんな存在であれ――『ありがとう』を言う事に、迷うべきじゃなかった」


 アダマリアが目を見開く。

 果たしてそれは呆れか、惑いか。

 愚かだな、なんて言葉がまた飛んで来る前に、俺は今度こそ真っ直ぐに言い切る。


 例え間違いだとしても。愚かな行為なのだとしても。

 罪だと分かってなお譲らぬのがヒトならば、このお礼だって言っていいはずだ。

 嗚呼、随分遠回りだったけれど、やっと言える。


「本当にありがとう、アダマリア。俺も、約束は必ず果たすから――」


 地獄の底に墜ちた俺を救い、姉さんを救いたいという願いをも叶えてくれた。

 そんなアダマリアへ、俺は心底からの感謝を送り。


 それを受け、アダマリアが口を開く――。


 ――煌々と。

 突如として、極大の閃光が俺とアダマリアを呑み込んだ。


「「――!?」」


 余りに唐突な、そして特大の発光現象に、俺もアダマリアも絶句する。

 地獄に氾濫する白い光。それは一切の熱や破壊力を持たず、地獄の端から端にまで届くような光量でただ俺達を抱擁し――やがて、光が収縮を始める。

 全方位を照らしていた光は、枝分かれした帯を思わせる光条に纏まり。それらがうねり、絡まり、たった一点に凝縮される。

 そうして、光は形を得た。

 鋳溶かした金属が冷めるように、光の塊だったものは色を持ち、質感を持ち、そして物理的重量さえを獲得して落ちる。

 呆然と立ち尽くした俺の、手の中へ。


「――これ、は」


 かちん、と。

 御伽噺の五芒の星がぶつかったような、綺麗な音を立てて俺の手の中に収まったそれは……どこからどう見ても、地獄ではとても手に入らぬような美しく神々しい『腕輪』であった。

 あの時の姉さんと同じように。俺は魂が抜かれたみたいに、腕輪の表面に刻まれていた文字を忘我の中で読み上げる。

 即ち――。


「『感謝の、腕輪』……」


 八大罪に対応する八美徳、『嫉妬』の大罪に対応した美徳――『感謝』。

 その名を冠した『腕輪』が、今俺の手の中に。

 まさか……アダマリアに俺を、この『感謝の腕輪』が選んだのか。

 そんな『腕輪』の顕現を目の当たりにして。

 気付けば石柱の上で立ち上がっていたアダマリアが、爛々と金色の目を見開いていた。


「小僧。確か、今までに確認された『腕輪』の出現は七つまでだったな――今、この瞬間までは」

「あ、ああ」

「ならば、はは――これで八つ全てが出揃ったというわけか!」


 最早その表情は、俺が捧げた感謝の言葉など彼方の先へ忘却していて。

 地獄の内からは見えぬ天を仰ぎ、アダマリアは怠惰すら捨て去って歓喜に叫ぶ。


「遥か天におわします我らが父よ! 気紛れに下されしその試練、必ずやこのアダマリアめが勝利し……その暁には、貴方が創りたもうた地上を、霊長を、我が罪で滅ぼしてみせましょうぞ!

 思い上がった現世の全てを水底に沈め! 震え上がった大地の遍くを火の海とし! 全ての生命を殺戮し虐殺し絶滅にまで追い込んで! 地上の楽園を我が地獄が呑み込む様を、我が愛が貴方の愛に勝る瞬間を、せいぜい指を咥えて見ているがいい!

 はは、はははははははははははははははは――!!」


 哄笑は高く。狂笑は天を裂くように。


 八つの腕輪が揃い、今、真に『恩寵争奪』は始まったのだ。

 ただ1人が現世への生き返りを果たせる、地獄全土を巻き込んだ殺し合い。

 その唯一の勝者たらんと。

 現世へ生き返り現世を滅ぼさんと、大罪の化身は――恐らく最強最悪の参加者は、哂う、嗤う。


 だけど。

 そんなアダマリアの姿を目の当たりにして……俺の中には恐れだけでなく、まったく別の感情も生まれた。


 『生きるとは罪を犯すこと』。

 『罪と知りながら、それでもと――これだけは譲れないと自ら手を伸ばすことこそが、「人として生きる」ということだ』。


 他ならぬアダマリアがそう語った以上……彼女は、罪を罪とも思わず悪行を為すのではない。

 何か理由があって、罪であると知りながら、成すのだ。

 ならば、その理由とは何なのだろう。

 俺がそれを知る日は、果たしてこの先訪れるのだろうか――。


 いや、違う。

 真に知りたいのなら、手を伸ばすべきだ。

 彼女の心の奥底へ。例え、誰が傷付くことになろうとも。

 それが彼女の言う、『真に望む』ということだから。


 けれど、嗚呼――。

 今この喉を塞ぐのは、傷付けられることへの惧れか。

 それとも、傷付けてしまうことへの恐れなのか。

 彼女が嗤い続ける間も、哂い終わった後でさえも、俺には判別することができなかった。

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