第37話 気持ちを固める(side ジェイク)
小人たちが歓迎の宴の準備をしてくれると言ってくれたので、それを待っている間クワトロに乗りの島の上空をぐるぐると旋回する。
ルーカスとして、【魔界の扉】を確認するよう指示を受け赴いた時は、魔物に荒らされて島のあちこちから煙が出ているような状態だった。
任務を終えてからも、度々様子を見に訪れていたが、その度に綺麗になっていく島を見て、いつかマリーネ様を連れて訪れたいと思っていた。
「本当に綺麗なところね」
後ろでお嬢様が嬉しそうに呟いたので、私も嬉しくなり、振り返った。
「そうでしょう、特に、夕焼けが――」
そこで、思わず言葉に詰まった。
太陽を背にたなびく髪を手で押さえたお嬢様の姿に目が眩んだからだ。
「……」
言葉を失った私に、彼女は不思議そうに首を傾げた。
「なぁに?」
「いえ、特に、夕焼けが美しいと、言おうと思ったのですが」
「ですが?」
「きっと、夕焼けを見るお嬢様の方が綺麗でしょうね……」
その光景を想像し、感慨深く呟くと、お嬢様は驚いた顔をして、それから顔を押さえた。
「……ありがとう」
小人たちの集落に戻ると、陰る日の中、宴の準備ができていた。
彼らにとって大人数用の皿が私たち人間にとってはちょうどよいサイズだ。
そこに料理をたくさん載せて持ってきてくれた。
「わぁ嬉しい……けど、食べつくしてしまわない? 大丈夫?」
心配顔のお嬢様に「明日、食べた分は調達して返しますから」と言っておいた。
「クワトロも気分転換になったか?」
傍らの竜に話しかけると、にっと尖った歯を見せた。これは竜の笑顔だ。
「そうか良かった」
クワトロの下あごを撫でて笑う。
屋敷を出てから広い空をずっと飛んでいるからか、クワトロとの同調も好調だ。
これであれば、屋敷に戻ってもしばらくは大丈夫だと思う。
羽を伸ばし、クワトロとの同調を回復させ、マリーネ様の思い出の土地をめぐり、旅の目的は達せられた。
しかし、正直な気持ちを言うと、屋敷の仕事から離れて、お嬢様とクワトロと過ごす時間が楽しすぎて、この時間を終わらせて家に帰りたくないくらいだった。一生こうしていたい。
「いや、また来れるのか……?」
私は独り言ちた。
お嬢様と結婚して、これから先何年も、こうやってまたこの島に一緒に来ることができる。
「幸せすぎではないだろうか、さすがに、それは」
私はポケットに手をやった。そこに入っている箱に触れる。
「きちんと、お伝えしよう」
よし、と改めて気持ちを固めて拳を握った。
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