第7話:砂漠の攻防
惑星F諸島。
かつては観光と漁業で栄えた、エメラルドグリーンの海に浮かぶ穏やかな島々は、今や隣国A国の侵略によって、硝煙と鉄の匂いに満ちていた。
空にはA国の戦闘爆撃機が旋回し、白砂のビーチには上陸用舟艇の残骸が黒々と横たわっている。
A国は、豊富な海底資源を狙い、国際社会の非難を無視して、この暴挙に及んだのだ。
F諸島の宗主国であるE国は、軍事力でA国に劣る。
彼らに残された唯一の希望は、惑星連合への介入要請だった。
そして、その要請に応える形で、白羽の矢が立てられたのが、PSEC(パワードスーツエクステンダーカスタム)「スーパーセブンズ」だった。
それは、PSEをベースとしながらも、特定の任務に特化して極限まで性能を高めた、七つの悪魔の軍団。
わずか7機で、通常兵力一軍、実に100個師団クラスの戦力に匹敵すると言われる、伝説の特殊部隊である。
彼らの存在は軍内部でもトップシークレットであり、その出撃は、惑星連合の意思が、外交的解決ではなく、完全な軍事的制圧を選択したことを意味していた。
タカシは、スーパーセブンズの母艦であるステルス強襲揚陸艦「ヴァルハラ」のCIC(戦闘情報センター)で、この作戦にオブザーバーとして同行していた。
彼の役割は、万が一、敵が未知の新型PSを投入してきた場合の技術的分析と助言。
しかし、彼の本当の関心は、この伝説の部隊が、PSという力の進化の最前線で、どのような戦いを見せるのかを、その目に焼き付けることにあった。
……「久しぶりだな、タカシ。こんな形で再会するとはな」
ホログラム通信の向こうで、ヘルメットのバイザーを上げた男が、ニヤリと笑った。
スーパーセブンズの隊長、ハヤト・神崎中佐。
かつてタカシと初代PSのパイロットとして競い合った、旧知の仲だった。
その瞳は、昔と変わらず、自信と、そして戦いへの渇望に満ちていた。
作戦は、シンプルかつ大胆だった。
F諸島沖に展開するA国の大艦隊と、すでに島に上陸し、橋頭堡を築いている陸軍部隊。
その二つを、同時に、そして電光石火の速さで叩く。
「ショーの始まりだ」神崎の言葉を合図に、ヴァルハラの艦底ハッチが開かれ、7機のPSECが漆黒の宇宙へと躍り出た。
彼らは大気圏に再突入すると、流星となってF諸島上空に到達した。
まず動いたのは、電子戦に特化した「マイクロウェーブ」だった。
機体から強力な指向性マイクロ波が放射されると、F諸島周辺の空域は、電子的な地獄と化した。
A国の空母から発進しようとしていた艦載機は、カタパルトを離れた瞬間に電子機器がショートし、制御不能に陥って次々と海面に叩きつけられていく。
早期警戒管制機(AWACS)は沈黙し、艦隊のレーダー網は意味不明のノイズを表示するだけと化した。
A国艦隊は、目と耳を奪われ、完全に孤立した。
電子の嵐が敵艦隊の神経系を麻痺させた直後、今度は長距離狙撃に特化した「レーザー」がその真価を発揮する。
衛星軌道上から放たれる、強力無比なパルスレーザー・カッタービーム。
それは、目に見えない神の槍となって、A国の巡洋艦や駆逐艦の艦橋、VLS(垂直発射システム)、CIWS(近接防御火器システム)といった中枢部分を、ピンポイントで、そして無慈悲に破壊していった。
抵抗する術を失った鋼鉄の城は、ただ沈黙し、あるいは二次爆発を起こして炎に包まれていく。
「見事なものだな…」CICで戦況を見つめるタカシは、思わず息をのんだ。
スーパーセブンズの戦いは、個々の機体が持つスペシャリティを、完璧なタイミングで連携させる、まるでオーケストラのような戦闘だった。
「各個が最高のソリストであり、同時に最高のアンサンブルを奏でる。それが俺たちスーパーセブンズだ。
だが、本当のクライマックスはこれからだぜ、タカシ」
神崎の自信に満ちた声が響く。
彼の言葉通り、艦隊を無力化した後、残りの機体が上陸した敵陸軍部隊へと襲い掛かった。
砂漠地帯に展開していた戦車部隊の上空で、「ボンバー」機のウェポンベイが開かれ、無数の小型融合弾がばらまかれる。
残留放射能を極限まで抑えたクリーンな小型水爆が、砂漠の各所で炸裂し、A国の主力戦車が、まるで玩具のように吹き飛ばされ、溶けていく。
それと同時に、「プラズマキャノン」機が、拡散モードで超高温のプラズマを面で放射し、敵の陣地を根こそぎ消毒するかのように焼き払っていった。
そして、とどめは、部隊の中で最も恐れられる「ソニックブラスター」だった。
敵が拠点としていた旧時代のコンクリート要塞に向け、特殊な超音波振動波が照射される。
物質の固有振動数に完璧に同調したその波動は、分子間の結合力を破壊する。
次の瞬間、巨大な要塞が、まるで砂の城のように、音もなくガラガラと崩れ落ちていった。
その内部にいた兵士たちは、自らの骨が粉々になる感覚を最後に、意識を失った。
わずか数時間後。
50万を誇ったA国の陸海軍は、その組織的抵抗力を完全に失い、生存者は武器を捨てて投降を開始していた。
スーパーセブンズは、指令塔を破壊されて洋上の置物と化した敵空母の飛行甲板に悠然と着艦し、無条件降伏を勧告した。
7機の悪魔が、一個の国家の野望を、完膚なきまでに叩き潰した瞬間だった。
タカシは、その圧倒的なまでの力の行使を目の当たりにしながら、PSという存在がもたらすものの本質について、改めて考えさせられていた。
この力は、確かに平和をもたらすための手段かもしれない。
だが、あまりにも効率的で、あまりにも破壊的すぎた。
この勝利は、A国に、そしてこの戦いを見ていた他の国々に、PSに対する恐怖と、そしてそれを上回る対抗心、すなわち新たな「天敵」を生み出すための、強烈な動機を与えるのではないか。
彼の胸に、一抹の、しかし確かな不安が、冷たい影を落としていた。
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