第6話:夜の魔導河散策

その夜、アリアに誘われて魔導河のほとりを散歩することになった。


「夜の川辺は美しいんです」と彼女は言った。


「勉強に疲れた時、よく一人で歩いているんですよ」


月明かりに照らされた魔導河(まどうがわ)は確かに幻想的であった。


水面がきらきらと光り、対岸の森が神秘的な影を落としている。石造りの学院建物群も、昼間とは違った荘厳さを醸し出していた。


「美しいですね。これはまさに私が思い描く魔法的な風景です」と私は感嘆した。


「でしょう?ここにいると、計算や暗記のことを忘れられるんです」とアリアは嬉しそうに微笑んだ。


我々は川辺の石段に座り、静かに水の流れを眺めた。


都市の喧騒から離れたこの場所は、実に平和で心が落ち着く。


「あの伝説のことですが...魔導河の真実を映すという話、本当だと思いますか?」とアリアが口を開いた。


「どうでしょうね。でも、こうして川を見ていると、確かに何か特別な力がありそうに感じます」と私は答えた。


「私もそう思うんです」とアリアは頷いた。


「実は...最近、自分が何を求めているのかわからなくなっているんです」


私は彼女の方を向いた。「と言いますと?」


「優等生だの学年首席だの言われていますが、本当は魔法理論なんてどうでもいいんです。私が欲しいのは...」


「本物の魔法なんです」アリアは言葉を探すように空を見上げた。


「本物の魔法?」


「計算や公式ではない、心から生まれる魔法。愛や友情、勇気から生まれる力。小説に出てくるような、そんな魔法があると信じているんです」


私は深く感動した。アリアもまた、この現実に満足していないのである。そして、私と同じような理想を抱いているのだ。


「私も同じです」と私は告白した。


「この世界に来て、魔法という素晴らしいものがあると知ったのに、実際は数学と変わらない。もっと...こう、心躍るような何かがあると思っていました」


「そうなんです!」とアリアは身を乗り出した。


「魔法とは本来、感情や意志の力であるべきです。でも現実は...」


その時、川面に不思議な現象が起きた。水面に光る点々が現れ、まるで星座のような模様を描いているのである。


「あれは...」と私は呟いた。


「魔法蛍です。月明かりの夜にだけ現れる、珍しい生き物なんです。とても神秘的でしょう?」とアリアは説明した。


確かに美しい光景だった。数百匹の蛍が川面を舞い踊り、幻想的な光の舞踏会を繰り広げている。


「これこそが本物の魔法ですね」と私は感嘆した。


「ええ。計算や公式では作り出せない自然の奇跡です」とアリアは微笑んだ。


我々はしばらく黙って蛍の舞を見つめていた。この瞬間、学院での退屈な授業のことを完全に忘れることができた。


その時、蛍たちが突然一斉に光を止めた。川面は再び静寂に包まれる。


「あれ?いつもはもっと長く光っているのに...」とアリアは首をかしげた。


私が水面を覗き込むと、そこに自分の顔が映っていた。


しかし、よく見ると何かがおかしい。鏡に映った自分が、微かに笑っているのである。しかし、私自身は笑った覚えがない。


「アリアさん、水面を見てください」と私は言った。


アリアが覗き込むと、彼女も驚いた表情を見せた。


「私の顔が...なんだか嬉しそうに見えます。でも私は笑っていませんよね?」


我々は顔を見合わせた。まさか、あの伝説は本当なのだろうか。魔導河が我々の「本当の姿」を映し出しているのだとしたら...


「つまるところ...我々は思っている以上に、この瞬間を楽しんでいるということでしょうか」と私は呟いた。


アリアは頬を赤らめた。「きっと...そうなのでしょうね」



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