第10話 蕎麦屋と胸臆
仁は葵の話を聞きながら、思い出すように遠くを見ていた。
「ボクもすごく楽しかったんだ。いつもは仕事のストレスを紛らわす為に、ふざけたノリでサッと帰るんだけどね。キミはドリンクや食べ物も考えてオーダーしてくれたろ?そういうのわかるんだ。」と、ふと懐かしい表情になり「ボクと暮らしていた猫のルウのことも思い出させてくれた。キミとの会話がルウと話しているような不思議な感覚だったよ。あんなこと初めてだった。」と照れながら「キミの感覚は正しい、あの場所に染まってはいけない。ボクが言うのもおかしいけどね。」と笑った。
「キミにまた会いたくて…辞めたことを聞いて、ボクは大切なものを手放してしまったと無力感に襲われていた。だからカフェで会えた時はすごく嬉しかったんだ。」
ちょうどその頃、食事が運ばれてきた。
「さあ、食べようか」と仁はふっと照れ笑いをした。
運ばれた食事は、蕎麦や天ぷら、色々な小鉢が机の上に並べられいい匂いがしている。
「美味しそう!」と葵は笑顔になり、二人でいただきます!と食べ出す。が、仁は急に照れながら「葵ちゃん、さっきの…男性とお付き合いしたことがないという話、好きな人はいないのかい?」と聞いてきた。
「付き合っている人はいません、気になる人なら…」とモジモジしだす葵。
「そうか…キミに好かれる男性が羨ましいよ。」と仁は寂しそうな顔をする。
え…もしかして私のことを?ううん、違ってもいい今言わなきゃ、葵は勇気を振り絞った。「私が気になる人は…五条さん…です…」心臓が高鳴り顔が熱くてたまらない、それでも自分の思いを伝えたかった。「あの時、五条さんと話をして…惹かれて、恋してしまいました…」言えた、手のひらは汗びっしょりになっていた。
「五条さんがしばらくカフェにも顔を出さなくて、久しぶりに会えたら酷くお疲れのようで…」葵は気持ちを伝えようと言葉を選びながら真剣に話す。
「お店で会えるだけで、それだけでよかったのに。今日話せたから…気持ちを伝えようと…五条さんが大好きなんです…」
葵は、告白の余韻と高揚感でいっぱいだった。こんなにも正直に、自分の想いを言えたのは、初めてだった。
仁は葵の告白に驚きながらも嬉しさと戸惑いが交錯していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます