第9話 カタルシス

葵は仁へメッセージを送ろうとするが、何を打っていいかわからなかった。とりあえず、『葵です、連絡先ありがとうございます』とだけ送り帰路に着く。


仁からは『明日会えないか?』とメッセージが届いていた。

葵は嬉しさと不安が交錯したが、明日バイトが終わったら会う約束をした。


仁から待ち合わせに指定された店は、モダンな蕎麦屋だった。

和風インテリアに木の温もりが漂い、店内は出汁の香りに包まれていた。

名前を伝えると奥の個室に案内されたが、仁はまだ来ていなかった。


ほどなくして仁が現れ「仕事終わらせてきたよ、待たせてごめんね」と申し訳なさそうし、

「ここは会食でよく利用するんだ、キミとゆっくり話したいからね。コース予約してあるんだ、ボクが払うから大丈夫だよ」と葵を安心させた。


ウーロン茶で乾杯し仁が話を続けた。

「あの後、キミに会いに行ったら辞めたと言われてしまってね。ほかの子が対応してくれたけど、急につまらなくなってしまったんだ。今までと同じような対応なのに、テンプレ通りだなと冷めてしまったよ。」と苦笑いした。


「あの…私だと…いつから気づいていたんですか?」ソワソワしながら俯く、「最初はわからなかったよ。コーヒーのドリンクをオーダーしてくれて、もしかしたらとは思っていたけど確信はなかったんだ。どうして辞めてしまったんだい?」仁は優しく問いかけた。


「もともとカフェの先輩に紹介されて、私…男性とお付き合いした事もないし、人見知りだし…就活も上手くいかなくて、そんな自分を変えたくて体験入店したんです。でも自分の金銭感覚と違う、染まってはいけないと……そう思ってて。それでも、私の妄想に付き合ってくれる五条さんと話していた時は……すごく楽しかったんです。」と顔を赤らめる葵。


「ボクもすごく楽しかったんだ…」仁はそう呟くと、グラスの中の氷をゆっくり回した。

彼の瞳は葵の方を見ているようで、どこか遠くを見ていた。

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