第28話『コンビニの更衣室、脱がされたまま』

コンビニの深夜シフトは、慣れるまでがしんどい。

22時から朝5時。

客の数は少ないが、眠気と寒さが地味に効いてくる。


そして一番気が重いのが──着替えの時間。


バックヤードの奥にある小さな更衣室。

幅90センチほどのロッカールームは、カーテンで仕切られてはいるが、

どうしても“誰かの視線”を感じることがある。


最初は、気のせいだと思っていた。

たかが気配、気温のせいだと。


でも、それが「違う」と気づいたのは、

制服に着替えている最中、ロッカーの鏡に“裸の女”が映ったときだった。



夜中の1時。

休憩に入り、バックヤードに向かった。


着替えようと制服のシャツに袖を通していたとき、

ロッカー横の細長い鏡に視線がふと吸い寄せられた。


鏡の中に、自分が映っている。


……その“後ろ”に、もう一人。


肩まで濡れた長い髪。

裸の女。

目だけがこちらをじっと見つめている。


慌てて振り返ったが、誰もいなかった。


カーテンは閉じたまま。

鍵もかけている。

そもそも、更衣室は私ひとりだけのはずだった。


(見間違い?……いや、でも──)


鏡にはまだ、曇った輪郭が“もう一人分”残っていた。



それ以来、

**制服のホックやスカートのファスナーが“勝手に外れる”**現象が起こり始めた。


レジ中、突然背中のホックがゆるむ。

ストッキングの裾がめくれている。

下着の肩紐がズレ落ちる。


客は誰も見ていない。

でも、見られている気配は強くなっていく。


あるとき、ストック棚で落とし物を探していたとき、

背後で「じょ……」と微かに水音がした。


その瞬間、制服のスカートの中に“手”が入ってきた。


冷たくて、濡れていて、

指ではなく、手首まで“ぬるり”と這い込んでくる感触。


「っ……!」


思わず立ち上がると、誰もいない。


けれど、足元には、濡れた指跡が床に浮かんでいた。



不安になり、古株の店長にそれとなく聞いてみた。


すると、彼はしばらく黙ったあと、こう言った。


「……あそこの更衣室、な。

昔、女子バイトの子が閉じ込められて、ひどい目に遭ったんだよ」


「犯人、バイトの男だったんだけど……

あの子、しばらく精神科入院してて、最後は電車に飛び込んだって……」


「それ以来、何人かの女の子が“勝手に脱がされた”って言って辞めてる」


(……それ、今わたしが、まさに──)



今ではもう、制服を着るたびに息を詰める。

ロッカーの鏡を見るのが怖い。


カーテンの隙間から、

誰かが覗いている気配が消えない。


そして、深夜3時前後になると、

どこからともなく、微かな喘ぎのような呼吸音が聞こえる。


「……ん……すごく、きれい……ね……」


勤務中、胸元がじっとりと濡れてくるときがある。


制服のホックを締め直すたび、

ふと思ってしまう。


──この服、ほんとうに“私だけが着ている”のだろうか?


【完】

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