第8話 真夜中の通知音
――ピロン。
夜中の0時を少し過ぎた頃。
スマホが手元で震え、俺は眠気にくるまれていた意識を引き戻された。
(……誰だよ、こんな時間に)
寝返りを打って画面を見ると、そこには一つのメッセージ通知。
白雪彩香:ごめんなさい!間違えました!!忘れてください!!!!!
……は?
一気に眠気が吹き飛ぶ。
よりによってこの時間に、よりによってこの相手から、よりによってこの内容。
(どういうことだ……?)
慌ててトーク履歴を開くと、俺に届いたメッセージはもう一つあった。
白雪彩香:明日も、お弁当作っていくね♡
最後についていたのは、ピンクのハートマーク。
いつも丁寧で端正な文面の彼女が、こんな甘々なテンションの文を――
(……間違えて送ったって、誰に?)
スマホを持つ手がじんわりと汗ばんでくる。
考えるな、俺。
これはきっと、母親とか、妹とか、女の子同士のノリの延長で――
……って、そんなわけあるか!!
「お、お弁当作っていくね♡」だぞ!?
しかも、間違えました!って……そりゃもう、俺に送るつもりじゃなかったって宣言してるようなもんじゃないか!!
――落ち込むべきか、喜ぶべきか。
――いや、どうリアクションすればいいんだ、これ。
俺は布団の中でゴロゴロと転がり、ひとり悶絶した。
画面の向こうで彼女が今、どんな顔をしているかを想像しただけで、心臓がバクバクする。
そして、もう一度スマホを見たとき――
白雪彩香:ま、まちがえたの!!べ、べつに深い意味とかじゃないからね!?!?
追撃が来ていた。
(……これはもう、間違えたことにしてるだけじゃないのか?)
けれど、その“間違い”が、俺の心をやたらと高ぶらせるのも事実だった。
そして、次の日――。
* * *
「おはよー……って、裕樹? なんか目の下すごいぞ」
「……寝てない」
「なんで?」
「察してくれ」
登校してすぐ、柴田奏斗に顔を見られて即バレした。
無理もない。昨晩の“事件”以来、俺の脳内はずっとループしてる。
「もしかして……夜中に女の子からLINE来たとか?」
「な、なんでわかる」
「えっ、マジで!? え、それって白雪さん!?」
「おい」
「おーい、やばいやばいやばいって。ついに始まってんじゃん、ラブのコメが!!」
うるさい、奏斗。マジで口を閉じてくれ。
だが俺がどれだけ口止めしても、彼は止まらない。
「で? なんてきたの?」
「……“お弁当作っていくね”って」
「は!? それ、付き合ってる彼女のセリフじゃん!!」
「ちがう、間違いって言ってた」
「間違いでも♡マークつけないだろフツー」
ぐうの音も出ない。
と、そこへ。
「……あの、おはよう……ございます……」
白雪さんが、教室に入ってきた。
長く艶やかな黒髪が揺れ、今日もきっちり整った制服姿。
だが、どこか視線が定まらない。そわそわと落ち着きなく歩く様子が、いつもの“完璧美少女”とは違って見える。
目が合った瞬間、白雪さんの顔が、バッと赤くなった。
「はっ……! は、はなみ、花宮くんっ……!」
「お、おう」
ぎこちない挨拶。
もはや“ポンコツモード”が起動しているのが手に取るようにわかる。
「きょ、今日は、あの……お、お弁当、あるから……」
「うん、ありがとう」
「ち、ちがっ、ちがっ、これはその、昨日の話の流れで……いや、ちが……あああぁぁぁぁ……っ!」
顔を真っ赤にして机に突っ伏した白雪さん。
そしてその様子を見て、教室の数人がざわつき始めた。
「え、白雪さんって、花宮くんと仲いいの?」
「最近よく話してるよね。なんか親しげだし……」
「まさか付き合ってるとか……?」
うわ、出た。噂だ。しかも思いのほか広がるのが早い。
(奏斗のせいか?)
そう思って彼の方を見ると――
「ふふっ、始まったな、学園ラブロマンス」
ドヤ顔で満足げにうなずいていた。
(お前だな!!)
* * *
昼休み。
今日も俺の机には、きれいに包まれたお弁当が置かれていた。
「……ありがとな」
「い、いいってば……あ、いや、良くないけど……もう、どうしたらいいの……!」
ふわふわと情緒が迷子になっている彼女を見て、俺は思う。
この“ポンコツモード”が、自分にしか向けられていないことが――少し、誇らしい。
「食べてもいい?」
「うん……っ! ううん、えっと、よ、よろしくお願いします……!」
もはや敬語もグラグラだ。
お弁当のふたを開けると、今日も白雪さんの手作りは見事だった。
けれど、俺の視線が釘付けになったのは、端っこに添えられた――
小さなウサギの形をしたりんご。
(……子どもか)
でも、それがなぜだか、やけに嬉しくて。
俺は思わず笑ってしまう。
「……やっぱり、白雪さんって、ずるいな」
「えっ、な、なんで……?」
「俺、また勘違いしそうになる」
「……う」
彼女はまた顔を赤くして、俯いた。
「――いいよ。勘違いしても」
その言葉は小さくて、たぶん俺しか聞こえなかった。
でも、確かに届いた。
俺の中で何かが動き出した気がして、思わず頬が緩んだ。
(……破壊力高すぎでしょ)
昼のざわめきの中、俺たちはそっと、秘密を分け合うように並んで弁当をつついていた。
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