第11話 貴賓席の英雄たち。

 1週間にわたって激しい戦いを繰り広げた武闘大会は、ついに決勝を残すのみになった。


 勝ち残ったのは、北限にある小さな港町からやってきた漁師のノルデンと、銀狼の毛皮をまとった少女ルルのふたり。いずれも、圧倒的な強さでトーナメントを勝ち上がっていた。


 闘技場の来賓席には、決勝戦を見学するため著名人が集っている。その中には、ドラゴン殺しの異名を持つ太陽の騎士団の団長フィオナ・ベルトイン、そして、妙案百出の誉れ高い副隊長、イザベラ・ローゼンクロイツの姿があった。


「ねーねー、イザベラ、決勝戦どっちが勝つと思う?」

「もちろん! 悪名高き海賊の末裔、ノルデンですわ!!」


 イザベラは、フィオナの質問に、縦ロールの髪をシャランとなびかせて自信満々で返答する。


「7シャーク(約210cm)を超えるノルデンの一撃をまともに受けてしまえば、不可思議な技を使う女闘士ルルもひとたまりもありませんわ!!」

「確かに。今までノルデンの一撃を受けて、誰一人と立ち上がったものはいないもんね。でもさー、どんなにすっごい攻撃でも、当たらなかったら意味がなくない?」


 フィオナの反論に、イザベラはわざとらしくかぶりを振るう。


「フィオナ、あなたの目は節穴ですこと? ノルデンは、怪力だけの男ではございません。いしゆみのごとく鋭いタックルこそが、彼の真の持ち味ですわ。女闘士ルルのファイトスタイルは、打撃をかわしてからのカウンター。インファイトに持ち込まれてしまうと、あの体格差を覆すことは到底出来ませんわ」

「うーん、それはそーなんだけどねー」


 イザベラの言っていることは理にかなっている。それはフィオナも充分に理解をしている。だが、フィオナにはどこか引っかかるところがあった。


「えっとね。うまく言えないんだけどさ、ボク、あのルルって娘に、妙なシンパシーを感じちゃってるんだよね?」

「シンパシー? なんですの?? それ???」

「うーん……ボクもよくわかんない♪」


 フィオナの要領の得ない回答に、イザベラは「やれやれですわ」と、頭をかかえる。が、隣からフィオナの意見に賛同する声が聞こえてきた。


「わたくしも、狼の毛皮のお嬢さんが勝利する気がいたしますの」


 フィオナとイザベラは、声の主を見て驚愕をする。


「その漆黒のローブ、もしかして……」

「漆黒の聖女、ミエル・マシュー様!?」


 驚くふたりに、ミエルはのほほんとした笑みをこぼす。


 「うふふ、お目にかかれて光栄です。ドラゴン殺しのフィオナ様、そして百出のイザベラ様」

「ええ? 聖女様! ボクたちのこと知ってるの? うっれしーな♪」

「ちょっとフィオナ!! 聖女様に馴れ馴れしすぎますわ!! も、申し訳ありません聖女様。ウチの隊長が飛んだ失礼を……」


 平身到底のフィオナに対し、ミエルが笑顔を絶やさず話す。


「うふふ、構いませんよ。それにわたくしは聖女様だなんて柄ではありません。親しみを込めてミエルと呼んでくださいまし」

「うん! わかったよ! ミエル♪ ボクも様付けは恥ずかしいから、フィオナって呼んで!」

「こ、こら、フィオナ!!」

「うふふ、ありがとう、フィオナさん。イザベラ様も、イザベラさんと呼んでよろしいかしら?」

「は、はい。光栄でございます。聖女様」

「ミ・エ・ルっでしょ??」

「は、はい、申し訳ありません、ミエル様!」

「『さん』でお願いできますかしら?」

「は、はい……ミエル……さ……ん……」


 プライドの高い名門ローゼンクロイツのご息女も、国の英雄、聖女ミエルの前にはたじたじだ。いや、名門の出だからこそ、国に選ばれた『聖女』がいかに高貴な存在であるかを知っており、上下関係を重んじる習慣が骨の髄まで染みついているのだろう。


 対して、天性の人垂らしであるフィオナは、周囲が決めた肩書などどこ吹く風だ。

 フィオナは、くったくのない笑顔でミエルに質問をする。


「ねーねー、ところでさーミエル、なんでキミも、ルルが勝つと思ってるの??」

「うーん……そうですわねぇ…………………………………………………」


 フィオナの質問に、ミエルは頬に手を当ててしばらく考える。そして、


「フィオナさんと同じ理由ですわ。うまく説明はできませんけれど……わたくし、あの狼の毛皮のお嬢さんとは、とっても仲良くできそうですの」

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