第10話 銀狼の毛皮を羽織った少女。
魔道武具師ゲオルク・バウエルがウエステッドをさって、9年の月日が流れた頃、ウエステッドでは、10年に一度開催される格闘大会でにぎわっていた。
格闘大会が開かれる年には、フライハイ国家連合中から、力自慢が一堂に会す。格闘王の栄誉を求めるため……もちろん、それもあるのだが、参加者の多くは、賞金の金貨100枚と破格の副賞が目当てだった。
格闘王の称号を得たものは、ひとつだけ、好きな願いをかなえることができるのだ。
巨大な道場を作った男。国一番の美女を手中に収めた男。一族の仇を決闘の場に引きずり出して積年の恨みを晴らした男。
格闘王の称号を得た歴代の猛者たちは、最大級の賛辞と、おのれの欲望を自由に叶えていった。
格闘王の栄光を目の当たりにした男たちは、その欲望を叶えるために格闘大会を目標に日々の研鑽を積むのだ。
ウエステッドの噴水通りにしつらえられた格闘大会の受付会場には、屈強な男たちが列を作っている。
その列に、いきなり割り込もうとする男がひとり。全身毛むくじゃらで、丸太のような太い腕をした男。ウエステッドの山で木こりをしている力自慢、ヨーザックだ。
「がっはっは、どけどけ!! 未来の格闘王様のお通りだ!!」
「なんだなんだ? いきなり割り込んできて!」
武闘着を着た男が、列に割り込んだヨーザックを注意する。
「あーん? あんだぁ? お前!! ジャマなんだよ!!」
「ひぃぃぃぃぃ? ぼ、暴力反対!!」
ヨーザックは武闘着を着た男の胸ぐらをむんずとつかむと、そのまま後方へ投げ飛ばした。
「ガッハッハ! そんなヒョロイ身体で格闘王を目指すなんざ、片腹痛いわ!! オラオラ、どけどけ!!」
ヨーザックは強引に列をかき分け受付へと向かっていく。受付会場に並んでいた男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。しかし、
ドンッ!!
たった一人だけ、ヨーザックから逃げない人物がいた。その人物は、白銀に輝く狼の毛皮を目深にかぶっていた。
「なんだぁ! お前!!」
「……ごめんなさい……アタシ、目が悪いので……」
「ん? おめぇ、女か?」
「はい……アタシ、ルルって言います。どうしても叶えたい願いがあるので、格闘大会にエントリーしにきたんです……」
「はぁ??」
ルルから放たれた言葉に、ヨーザックは腹を抱えて大笑いをする。
「ギャハハハ!! おいおいお嬢ちゃん、冗談がすぎるぜ! そんな瘦せこけた体で、格闘大会に参加だと?」
「はい……おかしいですか?」
首をかしげるルルにむかって、ヨーザックはさらに下品に笑い続ける。
「ギャハハハ!! コイツ、いかれてやがる!! この格闘大会は、連合国家中から力自慢があつまるんだぜぇ? 悪いことは言わない、とっととお家に帰りな! それとも、これから俺といいことしに行くかい?」
ヨーザックは、いやらしい目でルルを見ながら、肩を抱こうとする。その時だった。
「汚い手で、お母さんに触らないで!!」
ルルは、ヨーザックの毛むくじゃらな腕を素早く払うと、そのままヨーザックの中指を握りしめる。すると、
「ぎゃあああああ!!」
突然、ヨーザックが痛みに悶えだした。
「て、てめえ、何しやがった!!」
「中指は……心房につながっているの……」
ルルは、ヨーザックの中指を握る力をさらに強める。
「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ぁ……ぁ……ぁ……ぁ……!!」
ルルに中指を握られたヨーザックは、胸をかきむしりながら苦しみもが気、やがて口から泡を吹きだすと白目をむいてピクリとも動かなくなった。
「自業自得なの……」
ルルは、吐き捨てるように言い残すと、住処のある関所の森へと姿を消した。
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