第9話 漆黒の聖女。

「わたくしが今、こうして不自由なく暮らしていけるのは、そのツボのご利益ではけっしてありません。魔道武具師ゲオルク様より賜った、『魔断のローブ』のおかげですわ」


 ミエルの言葉に、インチキ医師のパラケルスはいぶかしげに首をかしげる。


「……ゲオルク? そんな魔道武具師なぞ、聞いたことありませんな。その男、本当に信用に足る男なのですか?」

「ゲオルク様は、才能あふれる魔道武具師ですわ。今は諸国で遊学をされておりすの。旅から帰ってきた暁には、お嫁さんにしてもらう予定です。お父様の許しも得ております」


 そう言って、ミエルは顔を赤らめる。


(この娘、何を言っているんだ??)


 パラケルスはあきれながら、ミエルを諭すように話し始める。


「……ミエル嬢、あなたは騙されたんですよ。そのゲオルクという男、『魔断のローブ』なんぞ怪しげな魔道具を売りつけて、国外に逃亡したのでは?」

「そんな! ゲオルク様は、決してそのような人ではありません!」

「ズバリ! ミエル嬢、あなたは騙されている!  『魔断のローブ』は呪われたアイテムでしょう! ズバリ! その薄汚いローブから染み出る呪いが、お父上を病魔に蝕ませているのです!! 今すぐローブ脱ぎ去りなさい!!」

「イヤです! このローブは、わたくしの命をつなぐ大切なモノです!」

「そうですか……ならば力ずくでも!!」

「や、やめてください!!」


 パラケルスは、ミエルの『魔断のローブ』を強引に脱がしにかかる。が、その時奇跡が起こった。

 『魔断のローブ』を脱いだミエルの全身から、まばゆい光が放たれたのだ。


「な!? まぶしい、なんだこの光は!! ぐ……ぐるじい……息が……でき……な……い」

「?? どうしたのです? パラケルス様!」


 突然苦しみだしたパラケルスを心配するミエル。

 しかし、ミエルが近づくほど、パラケルスの苦しみは増大していった。


「ち、近寄るな……頼むから、近寄らないでくれ!! すまなかった! もう二度と、インチキな医療などしない! だから頼む! これ以上近寄らないでくれぇぇぇ!!」


 パラケルスは喉をかきむしりながら部屋を飛び飛び出すと、そのまま一目散に逃げ去って行った。

 ミエルの身体から放たれる聖なる光は、邪な人間に天罰を下し、真実を白日のものとする、裁きの力が備わっていたのだ。


 そして、奇跡はそれだけではなかった。


「ミ……エ……ル……? その光はなんだ??」

「お父様! 目を覚ましたのですね」

「ああ……なぜだろう。ミエルから放たれる光を浴びると、力がみなぎり、心が穏やかになっていくみたいなんだ……」


 ミエルの起こした奇跡は、街中に知れ渡った。


 悪人には天罰を、善人には癒しを与える奇跡の光。

 ミエルは、奇跡の光で悪人をあぶりだし、病に苦しむ清らかな心を持つ人々を救っていった。


 やがてミエルは、漆黒の『魔断のローブ』を身にまとったその姿から、悪人からは畏怖を、善人からは尊敬の念を込められ、『漆黒の聖女』と呼ばれるようになっていった。

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