第20話「梅の里から」

日向めぐるは弁当の袋を開けて、声を漏らした。


「……練り梅!」


小さなカップに、つややかな赤。ふりかけ回の時に話題に出した“梅干し”が、まさかこんな形で登場するとは。


午後の授業後、大学のベンチで弁当を広げていると、悠木詩織が隣に腰を下ろした。


「それ、うちの親戚の農園からだよ」


「えっ!? また知り合いルート?」


「紀州で梅農園やっててさ、毎年リコリスに出荷してるの。チャンプルーとか塩炒めみたいな淡白系おかずの日に合わせるんだって」


なるほど、梅はご飯のお供というだけじゃなく、献立のバランスを取る役割もあるらしい。

めぐるはチャンプルーを食べ、箸休めに練り梅をのせたご飯をひと口――酸味と甘みがふわっと広がり、豚肉の旨味が一気に引き立った。


「……梅って、こんなに脇役と主役を両立できるんだ」


そこへ北山望が通りかかり、何気なく会話に入ってきた。


「梅農園の息子、高校の時モケ女の大会で見たぞ。あいつ、梅柄のTシャツ着てた」


「梅柄……?」


「うん、超ダサかったけど梅は本物だった」


めぐるは笑いながら思った。

リコリスの弁当は、まるで町田そのもの。

人の縁が、おかずひとつひとつを運んできてくれる。

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