第18話「納豆と佃煮と、リコリスの台所」

日向めぐるは、今日もリコリスの献立表を確認して出かけた。

表示は「魚の塩焼き」。

――だけど、帰って蓋を開けた瞬間、視線はそこに釘付けになった。


「……納豆!?」


ご飯の脇に、小ぶりなパック。

その瞬間、めぐるは先日の“海苔の佃煮”を思い出した。

あれは、たまたま北山望とサイゼで会ったときに聞いた話。


「あれ?あの佃煮、俺の知り合いが作ってんだよ。

 リコリスに卸してんの、植村さんの友達だってさ」


今日の納豆も、もしかして――。


翌日、大学の昼休み。

めぐるが弁当を開けると、隣の席に悠木詩織が座ってきた。


「……あ、その納豆。たぶん手作りだよ」


「えっ?!」


「私のおばが、茨城で納豆工房やってるんだけど。

 リコリスの“和食週”にだけ送ってるって聞いたことある」


めぐるは納豆をかき混ぜながら、妙に感慨深くなった。

リコリスの弁当は、ただ美味しいだけじゃない。

人と人のつながりが、ちゃんと詰まっている。


鮭の塩焼きは香ばしく、がんもはじゅわっと出汁がしみている。

紅白なますが口の中をさっぱりさせ、納豆がご飯を最後まで引っ張る。


「……これ、食べ終わったら工房の場所、教えてもらえる?」


「いいけど……行く気?」


「うん、“リコリスの台所”を、ちょっと覗いてみたいんだ」

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