第45話 アークスの真意と工房での再出発

『世界調和装置』の起動と、ミオの深い眠りから数日。

『生産型移動要塞『フロンティア号』』は、今日も空をゆったりと移動しとったわ。窓から差し込む陽の光が、船内を明るく照らしとる。

世界は、見事に再生されとる。次元の歪みも消え去り、空は澄み渡り、大地は豊かな緑を取り戻しとる。

(うわぁ、世界平和って、ほんま簡単に実現するんやなぁ!うち、天才かもしれへん!)

ミオは、フカフカソファに埋もれて、資材スライムをモフモフしながら、至福の時を過ごしとった。

資材スライムは、ミオの膝の上で、気持ちよさそうにぷるぷると震える。ひんやりと、そして柔らかい感触が、ミオの心を癒す。


アークスは、世界調和装置によって、破壊能力を完全に封じられたんや。

彼の体から放たれる黒い光は消え失せ、今ではどこか寂しそうな顔で、工房の隅に座り込んどる。瞳には、かつての狂気は宿っていない。

ミオは、そんなアークスを見て、そっと隣に座った。


「アークスはん。あんた、なんで世界を壊そうとしとったん?」

ミオが尋ねると、アークスは顔を上げた。その瞳には、諦めと、微かな悲しみが混じっている。

「ワタシは……この世界を、もっと良くしたかったのだ……。だが、その方法は……」

アークスは、ぽつりぽつりと、自分の真意を語り始めた。声は、どこか遠い過去を懐かしむようだった。

彼は、かつてミオと同じように、この世界を救うために召喚された転生者やった。

「ワタシも、そなたと同じ『究極の生産』の能力を持っていた……。だが、ワタシは要領が悪く、未熟だった……」

アークスは、過去の失敗を語る。その声は、悔しさに震えている。

彼は、食料不足を解決しようと『超巨大パン』を作ったんやけど、巨大すぎて誰も食べられへんかったり。そのパンは、腐敗して街中に異臭を放ったらしい。

疫病を治す薬を作ったんやけど、効果が強すぎて、みんなが一日中寝てしまう、なんてこともあったらしい。その薬のせいで、大事な祭りが台無しになったこともあったと、彼は自嘲気味に笑った。

「その結果、『人々がちょっと困っちゃった』という、残念な過去があったのだ……。ワタシの生産は、人々を苦しめるだけだった……。だから、全てを破壊し、ゼロからやり直すしかないと考えたのだ……」

アークスの声には、深い後悔が滲んでいた。彼の表情は、絶望の淵を彷徨った者のそれやった。


「なるほどなぁ……そっかぁ。あんたも、大変やったんやなぁ」

ミオは、アークスの肩をぽん、と叩いた。その手は、優しく温かい。

「でもな、アークスはん。うちの生産は、失敗しても、また作り直せるんやで?それに、みんなで力を合わせたら、どんな問題も解決できるんや」

ミオは、にっこり笑うと、アイテムボックスから『魔力たっぷりロールケーキ』を取り出し、アークスに差し出した。ロールケーキからは、甘い香りがふんわりと漂ってくる。

アークスは、ロールケーキを不審そうな顔で見つめる。その目は、警戒心でいっぱいだ。

「お菓子など……」

そう言いながらも、アークスはロールケーキを一口食べる。

その瞬間、彼の冷たかった表情が、驚きと恍惚に変わった。彼の目尻が、微かに下がり、口元が緩む。

「な、なんという甘美さ……!これほど純粋な甘さ、ワタシの破壊の力をもってしても……!」

アークスは、ロールケーキをあっという間に平らげた。その姿は、まるで小さな子供がお菓子をねだるみたいや。

「ぐぬぬ……甘い!甘すぎるぞ、だがそのお菓子は最高に甘い!」

ミオは、にっこり笑う。

(はい、懐柔成功!)

ミオは、心の中でガッツポーズをした。


「アークスはん、うちの工房で、一緒に生産を手伝わへん?お菓子食べ放題やで!」

ミオの言葉に、アークスは目を丸くした。彼の瞳には、驚きと、かすかな希望が宿る。

「ワタシが……生産を……?」

「せやで!あんたの破壊の力も、うちの生産で、きっと役に立つはずや!それに、うちの資材スライムたちも、あんたの破壊の魔力、モグモグして片付けてくれるし!」

ミオが、そう言うと、資材スライムたちが、アークスの周りを嬉しそうに飛び跳ねた。

土色のスライムが、アークスが座っていた場所の僅かな埃をモグモグ片付け、銀色のスライムが、破壊能力で壊れた魔導具の破片を嬉しそうに食べる。

資材スライムがアークスの周りを嬉しそうに飛び跳ね、彼が作ったものをモグモグして「これじゃないぷる!」と評価したりする。アークスはスライムたちに振り回され、どこか生き生きとしている。彼の顔には、微かな笑みが浮かんでいる。

アークスは、資材スライムたちとミオの工房での賑やかな日常を想像した。

そして、彼の顔に、微かな笑みが浮かんだ。それは、彼が転生して以来、初めて見せるような、穏やかな笑みやった。

「……ならば、ワタシは、そなたの工房の技術顧問となろう。お菓子は……毎日用意するのだぞ」

アークスは、そう言って、またロールケーキを頬張った。その手つきは、どこか満ち足りている。

敵だったはずの転生者、アークスは、ミオの『究極の生産』能力と、お菓子と資材スライムの可愛らしさのおかげで、あっさり工房の住人になったんや。

工房には、また一人、新たな仲間が増えたんやな。


王族や冒険者たちも、アークスが工房の技術顧問になったことに驚きを隠せない。

「まさか、あの破壊の転生者が、ミオ殿の工房に……!」

ライオスが、目を丸くして呟く。

「これも、ミオさんの奇跡ね」

フィオナが、優しく微笑んだ。

シエラは、アークスの今後の行動に興味津々や。彼の周りには、資材スライムたちが嬉しそうに跳ね回っている。

ルナリア姫とリリアーナ王女は、アークスが工房で新しいお菓子を開発してくれることに期待を膨らませとる。

ゴルムはんは、アークスの破壊の能力と、ミオの生産の能力が融合することに、新たな技術の可能性を見出し、目を輝かせとる。

エリアスは、アークスから語られる世界の真実の断片に、さらに深く没頭していた。

ミオの工房は、アークスを迎え、さらなる賑やかさと、平和な創造の日々へと向かう。


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次回予告


世界は再生に向かい、新たな時代が始まるで!

うちの工房は、世界の中心として、みんなの笑顔が集まる場所に!

ライオスはんたちは英雄に、シエラは美食家、フィオナは世界中にお菓子を配る!?

資材スライムはんたちも、世界各地で大活躍するんやろか!?

次回、チート生産? まさかの農奴スタート! でも私、寝落ちする系魔女なんですけど!?


第46話 新生の萌芽とそれぞれのゆるい道


お楽しみに!

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