第26話:自己中心的
王都(王城)はモード王国の中心部にあり、その周囲に高原と中規模の街が複数個広がっている。
「向こうは馬車を想定しているのでしょうね」
「転移魔法って便利ですからねー。もう乗り物には戻れませんよ!」
「貴方は乗り物が嫌いなだけでしょうに」
病院と学校の運営を優秀な部下たちに任せ、
「相変わらず嫌な街ですね」
「貴方の理想とする都市計画でないのは理解しますが、そう上手くはいかないものですよ」
「そうですかね」
王都の中はそれほど広くはない。広場には夜しか入ることができないテント。王都の門の近くは店のあるエリア。そして、王城を囲むように一部の貴族のエリアがある。貴族のエリアは遠くから見るだけでも煌びやかで、この国に貧民が存在しているとは思えない。
芹たちはそれらを片目に歩き続けた。
そして、王城へ続く石造の橋を超えた先に、王城の門番がいた。
「『友人』、一旦一体化してください」
「……わかりましたよ」
「……ん?お前ら何者だ!」
門番の屈強な男は、芹たちに気付くと大声を出し、剣を構えた。
「国から出頭命令が出た
「何……?確認させてもらう」
門番は手紙と共に送られてきた入場証をじろじろを見た。そして少しすると剣を鞘に納め、入場証に手をかざした。
「『認証』」
門番がそう言うと、ただの紙の入場証が青色に光った。
「確認できた。通れ」
「ありがとうございます」
芹は問題なく門を通過すると、そのまま手紙に書かれた通り城の1階広間へと向かった。
「この世界は、本当に危うい建築が多いですね」
「余計なことは良いから行きますよ、芹」
再び分離した『友人』は、ふらふらと辺りを眺めながら歩く芹を引っ張っていく。
「……ああ、いましたね」
そして、『友人』は広間の中心にある受付に立っている人影を見つけた。
立っていたのは20歳くらいの、黒い服を見に纏った女性だった。服装からして所謂魔法使いだろうか。
「………?何者ですか?」
「出頭命令が出た
「………は?」
女性は、芹の言葉を聞いて固まった。理解できないという表情をしていた。
「お言葉ですが、冗談を言ってますか?もし、本気でなりすまそうとしているのならば、今すぐに立ち去りなさい。バレたら死刑では済まされませんよ」
「冗談は言っていないのですが」
「言わないと分かりませんか?ここままだと貴方の大事な人も皆拷問の末、苦しみの中で死ぬことになりますよ?」
「おや、それは困りますね。皆さんに苦しんでほしくはありません」
「ならばとっとと帰ってください。そして、本人を連れてきてください」
「いえ、私が本人です。何か勘違いしていらっしゃいますか?」
「……………」
「あの、どうしましたか?」
「……………」
女性は黙ってしまった。その顔には、言い表せない『怒り』と『困惑』が溢れ出ていた。
それを見て、『友人』はするっと前に出ると、芹を後ろに下がらせた。
「少しよろしいですか、貴女はおそらく、私たちが手紙が届いてからほぼノータイムでここに来たことを怪しんでいるのだと思いますが、我々にはそれが可能です。貴女たち人間の尺度で我々を測っても時間の無駄ですから、早く通してください」
「な…………?」
「芹の時間は貴重です。貴女たちのような利権に塗れた愚かな者……いえ、それは貴女には失礼でしたか。ともかく、私は彼に無駄な時間を過ごしてほしくない」
「………っ」
『友人』は、芹のコミュニケーショ不足を補うかのように前に出たかに見えて、むしろ芹よりも過激に、強引に話を進めようとする。
圧倒的な存在感を意図的に放つ『友人』をまともに見てしまった女性は、言葉を発することができず、冷や汗だけを流した。
「代表のところへ、通してもらえますか?」
***
芹を呼んだマナス侯爵は、芹たちが案内された場所にはいなかった。
芹たちが案内されたのは、代表者がいる部屋でもなければ、裁判所でもなければ、警察でもなかった。
そこは地下の、どろどろとした空気が流れる、薄暗い空間だった。
「あら」
芹は特殊な魔法でできた縄で拘束された。この縄は魔力を制限するという。そして同時に椅子に縛り付けられる。
『友人』はまたしれっといなくなり、薄暗い部屋には芹と、屈強な男2人、そして芹が座らされた椅子の周りを囲むようにして配置されたテーブルに書類を並べつつ椅子に座っている男女たちがいた。
「裁判でしょうか?」
「許可なしで口を開くな。立場を弁えろ」
「それは失礼」
「貴様……」
全く緊張感のない芹を見て、屈強な男の1人が眉間に皺を寄せた。
「──これより、重大な犯罪の容疑がかかっているセリ・イシヤマに尋問を行う」
「尋問ですか」
「そうだ。貴様にはこれから、代表者からの質問に答えてもらう。正直に吐かなかった場合、貴様が五体満足のままでいる保証はない」
「なるほど、そうでしたか」
「ふん……いつまでそう余裕でいられるのか、楽しみにしておこう」
男がそう言って芹から離れた。
すると、屈強な男とは打って変わってなよなよとした少し年の行った男が芹の元へやってきた。
「貴様には、国に無許可で教育機関を運営しているという容疑がかかっている。これは本当か?」
その男は、その男なりに凄みを出しているのだと思われるが実際にはそうでもない程度の圧で芹に話しかける。
「はい、事実です」
当然と言えば当然であるが、芹は淡々と答える。
「なぜそんなことをしたのだ?」
「教育機会を保障することこそが、世界や命たちのためになると考えているからです」
芹がそう答えると、男は不思議そうにさらに尋ねる。
「『学校』は、貴族のみに与えられた特権であることは理解しているのか?」
「事実を把握しているか、という意味の理解ならば当然しています。しかし、それが飲み込めることであるか、という意味の理解ならば、していません」
「……なんだと?」
「『学校』が貴族の特権である、ということを私は理解しないでしょう」
芹のその言葉で、部屋の中の空気が一気に黒く染まった。見物していた者の中には、思わず立ち上がった者もいる。
「お前は、どうやら非常に自己中心的らしいな。国家に対する敬意がない」
「敬意ですか。確かに国家にはないかもしれませんね」
「残念だが、これ以上は聞く必要もないかもしれない。全員、座ってください」
男がそう言うと、立ち上がって怒り狂いそうになっていた男女らは席に座る。
「これから、容疑者について、議決を取りたいと思います。この容疑者が犯罪をおかしたと判断した方は、ご起立ください」
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