第25話:極悪人への手紙


 ──学校説明会、1日目。現在午前11時。初日はあいにくの雨だった。


「本日はお足元の悪い中、お越しいただきありがとうございます。石山病院院長の石山芹いしやませりと申します」


 体育館の壇上で、芹が説明会の開始を合図すると、小さめの拍手が起こった。見学に来た者たちは老若男女さまざまで、種族も様々だったが、全員半信半疑であることは共通していた。


「さて、この学校は比較的高台に建設しました。そのため水害の心配はそれほどなく、主に子どもたちの安全は確保できていると思っていたのですが、登校の際に安全をいかに確保できるかということが大事であることを、今日の説明会に皆さんがお越しになるにあたってやや苦労したことから認識いたしました」


 最初は芹の個人的な話から始まり、聴衆の反応は今ひとつであった。


「ですので、登校ルートの安全確保のためにさらなる整備を行おうと思っています。乗り物の用意も進めようと思いますので、ご期待ください。それでは、この後校長の神崎こうざきくんから説明がありますので、是非お聞きください」


 芹は少しふわっとした内容の話をつらつらと続けると、そのまま壇上から去った。詳しい内容は蘿蔔すずしろが説明することになっていたので、はっきり言ってノープランであった。


(何を言おうか分からないと思って当日まできましたが、やはり演説はあまり得意ではないようですね)




***




「………きれー」


 オーガストを車椅子に乗せ、自慢の脚力をもって雨の中高原を走ってきたのだが、色々と想像と違いすぎて混乱していた。

 まず、そもそも私たち平民は学校なんてものは、貴族たちのエリアを遠くから見た時にちらっと見えたかどうか程度であったため、こんなに近くにあるものなのかと驚いた。まぁ、住所的には近くはないのだが、貴族たちのエリアのように隔絶された感じため、そのまで遠くも感じない。

 乗り物を用意してくれるという話もありがたい。


 そして、何よりもびっくりしたのは、学校が予想以上に大きくて、しかも綺麗だったことだろうか。

 灰色の石?のような外観に所々装飾が施された学校は、はっきり言って外観だけで言えば遠くから見える貴族たちの家よりも豪華で、重厚感があった。


「やっぱ、おかしいよね?」

「……そうだな」

「あのセリってやつ、なんでそんなにお金持ってるのかもよく分からないし、なんでこんなことやって貴族に目をつけられてないのかもよく分からないし」


 セリという白髪の男は、年齢はいまいち分からなかったが、そこまで歳ではなさそうだ。

 有名人というわけでもないし、なんでこんな立派な建物を建てることができたのか謎だ。


「……まぁ、でも、あのスズシロさん?の話しはかなり魅力的だったな」

「いや……それはそうだけど」

「職員の人はみんな優しそうだったよ」

「でも、やっぱり怪しいよ。普通に考えてそもそも利益出ないし。事業になってないよ、これ」


 オーガストはここの職員にすっかり惑わされている様子だった。

 ここは私がしっかりしないと。


「本当に子どもを預ける気なら、慎重にいきましょう」

「ああ……そうだったね」




***




「院長、モード王国から手紙きてますよ」

「手紙ですか、繁縷はこべらくん」

「面白いこと書いてあるので、自分で読んでください」

「なるほどなるほど、では」


 院長室にて、ニヤニヤした顔をした繁縷はこべらから手紙を受け取ったせりは、勝手に自分宛の手紙を読んだ繁縷を咎めることもなく手紙を開いた。


「『セリ・イシヤマ、貴殿にはモード王国国法に違反し、無許可で教育施設を運営したという容疑がかけられている。また、国法では規定されていないものの、治癒魔術師協会に加入せずに治療所を運営しているとして抗議も受けている。よって、直ちに王城へ出頭せよ。この命令を守らなかった場合、無条件で極刑とする。期日は⚪︎⚪︎日正午とする』」


「院長、極悪人ですねー」

 繁縷はこべらは自分も共犯だというのに、どこ吹く風であった。


「⚪︎⚪︎日というと、1週間後ですか。まぁ、通常の人間が王城まで行こうとすればそこそこ時間がかかりますから、そんなものでしょうか」

 芹もまた、危機感は特にない。


「どうするんです?」

「そうですねー。どうしましょう?どうするのが正解なのでしょうか」

「全員消しちゃえば良いんじゃないですか?1秒もかからずに全員消せるじゃないですか、院長なら」

「それはダメでしょう。この人たちも尊い命なのですから」

「じゃあまた『強制的な教育』ですか?」

「まぁ、それが良いでしょうかね。病院も学校も待っている方が多いですから、あまり時間がかからない方が良い」


 繁縷と芹は、側から見れば物騒な会話をしていたが、本人たちは気づいていない。


「あ、でも、例の団体が何かしてくるかもしれませんね」

「そうですね……ただ、思ったよりも何もしてこないのは不思議ではあります。向こうも、こんなことで私をどうこうできるとは思っていないはずなのですが」

「何か狙っているのかもしれないですね。あとは───────」

「あぁ……それもありえるのかもしれませんね」


 芹は立ち上がり、少し伸びをした。


「まぁ……メジアン王国に侵攻してエルフたちを虐殺しようと企んでいるとも聞きますし、早めに手を打つ良い機会でしょう」

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