第8話:愉快犯
「──ん?なんだ貴様ら!」
「……やはりいましたか。『生命停止』」
『友人』は、城の門番と思われる2人を心底面倒くさそうに消す。彼にとって城の門番は尊い命ではなかった。
(うわ……)
そしてそれを見た
「皆さん、前回は世界が異なり若干形態が違ったので改めて紹介すると、このつまらない城がこの世界の『あの世』における本部になります」
門から入城すると、すぐに大きなエントランスがあった。だが、清掃が行き届いていないのかとても古く感じる。
「これ耐震性大丈夫なんでしょうか、『友人』」
「『あの世』には基本的に地震はないので大丈夫です」
エントランスは吹き抜けになっており、およそ6階分程度の高さがある。
見上げると、いくつもの扉が見えた。
「とりあえず、4年前に亡くなった魂数人を探すわけですが、計画通りやるつもりですか?」
「当然ですよ。そうしなければ、権限的に時間が足りません」
「そうですか……芹らしい判断だと思います」
「あの……芹様。結局どうやって探すのですか?ご友人の力を使う、と聞きましたが……」
蘿蔔は、不安そうに芹に尋ねた。
「
「え……?えーと、この世界が例外でないなら、通常『王』のはずです」
「その通りです。『あの世』を管理しているのは『王』であり、言わば『この世』における世界神と同列なわけです。であれば、『王』は情報を持っているはずです」
「……それはつまり『王』に情報を聞く、ということ……ですか?……いや、それでは……」
蘿蔔は考え込んでしまった。
「蘿蔔くん、深く考えすぎです」
「……え」
「簡単な話です。この世界における『王』の権限を掌握してしまおう、と言っているのですよ」
***
「……『王』の権限を掌握する、ですか?」
「ええ。ある程度『あの世』の権限を持った貴方がいれば可能なはずです」
何もない空間。
正確に言えば、石山芹の脳内空間にて、『友人』と芹は対峙していた。
「はぁ……芹、分かっていますよね?『この世』と『あの世』は相互不干渉で今まできていますよね?確かに、『最高神』は『この世』と『あの世』全体の代表ではありますが……あくまで、表面上の話です。現に貴方には『あの世』における絶対的な権限はない」
「ええ、その通りです。『あの世』における最高の権限は『王』が持っています。これは、『この世』における最高神と世界神の関係とは異なります」
『この世』と『あの世』には、それぞれ権限を持つ者として『世界神』と『王』がいる。そして、それら全体を束ねる存在であるのが『最高神』である。
しかし、実際には『最高神』はこの世において『世界神』より上の権限を持つ一方で、あの世において『王』より上の権限を持っているわけではない。
今まで、慣習として『この世』と『あの世』は相互不干渉でやってきた。これは、世界の生命バランスを保つ意味も持つ。
「ですから、より多くの存在を救済するためには、『あの世』の権限も掌握したいのですよ」
「…………」
「私は何かおかしいことを言いましたか?」
「……いえ。見方を変えればただの帝国主義だなぁ、と思っただけです。お気にせずに」
(もし仮に私と芹が特定の世界の『あの世』における権限を掌握してしまえば……他の世界の『あの世』が黙っていないだろう。だが……)
「それも、良いかもしれませんね」
(私は、愉快犯だ)
『友人』は少し笑う。その精神は、目の前の最高神と体を同じくするには適切であった。
***
城の、『王』の部屋にて。
「……何をしにきた、最高神よ。ここはお前のテリトリーではないぞ」
「はは。相変わらず『王』は皆傲慢ですね」
「ふっ!我らから見れば、貴様ら神の方がよほど傲慢に見えるがな」
芹の前には、10mを超えるほどの巨人がいた。
鬼のような見た目をしたこの巨人が『王』である。
彼の肌は赤黒く、血液のようだ。
「今日は用事があってきたのですよ。4年前に亡くなった魂を探しに来たのです」
圧倒的な体格差があるが、芹は一切怯むことはない。そもそも『最高神』と『王』の対話において、体格など関係がないと言える。
「……四年前の魂?はははっ、何を言い出すかと思えば!死者を『この世』に呼び戻そうとでも言うのか!」
「ええ、その通りです。魂があれば、その方を蘇生することができます」
芹の発言を聞いて、『王』は醜く笑う。
それが不可能であると確信しているからだ。
「ならば、その野望は叶わんなぁ。『あの世』における権限は我が持っているのだ。お前では魂の回収はできない!世界のバランスを壊す邪神はとっとと帰ってもらおうか!」
『王』は、これ以上の話は無駄だとばかりに芹を城から追い出そうとした。追い出そうとしたのは、芹を殺すことはできないからでもあるのだが。
だが、芹はそれに従うほど『あの世』に優しいわけではなかった。
「残念です。もし仮に貴方が協力してくださるのでしたら、強硬手段に出ることはやめたのですが……」
芹は本当に残念そうに『王』を見た。彼に情などは存在しないが、命を無闇に奪うことを好んでいる訳ではない。
彼はゆっくりと、『王』の未来を宣告する。
「ではこれより、貴方の権限を奪わせていただきます」
その声は悪魔のようだった。
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