第25話『ママ』
複数階建ての壮麗な館。
そこは表向き「交易斡旋ギルド」として振る舞っているが、裏の顔は法や倫理を無視した非合法組織、ただのヤクザと何ら変わらなかった。
シノギは、常人の想像をはるかに超える非道なものばかり。
禁じられた区域に生息する
人族であっても例外はなく、借金の肩代わりとして差し出された子どもを、裏の競売に売り飛ばすことも珍しくない。
そして、稼ぎの過程で不要となった者たちの末路は、いつも決まっていた。
この屋敷の地下には、絶えず異臭が立ち込める部屋がある。
運び込まれた人や魔獣はそこで部位ごとに切り分けられ、その肉は────。
────
〖グズの視点〗
さっきまで胸を揉みまくっていたご主人──カッツォさまは、食事の乗ったテーブルにエルフさんを押し倒すと、
ズッチュ ズッチュ
肉の中に肉をねじ込むような生々しい音。
………ホント飽きないな、カッツォさまは。
そっと、目隠しに触れる。
うわー、めちゃくちゃツバついてる。
うぅ、臭い……。
早く洗い流したいよぉ。
「はぁっ…はぁッ…あ゛ぁ゛っ!……い゛い゛ぞッ!!」
カッツォさまが腰を振るたび、エルフさんがびくん、びくんと身体を反らせる。
……早く終わらないかなぁ。
テーブルはガタガタと揺れ、食器と食べかすが絨毯に散らばっていく。
ぼんやりと、その光景を見守ること3分。
「ん゛……あ゛ッ……がふっ……カッ……」
ピンと伸びていたはずのエルフさんの足が、バタバタと暴れだした。
「おおッ!………きたきたッ!いい感じにシマってきたぁッ!」
カッツォさまは恍惚とした表情を浮かべながら、エルフさんの首を絞め続ける。
今日もご機嫌だ。
午前に5回、午後に3回……っと、今のも入れると4回かぁ。
出し入れしているソレは、もげたりしないのだろうか?
あー、でも、おじさんもあれくらいやってたし、男の人からしたら案外平気なのかもしれない。
それよりも、こぼれたパンやチーズが気になる。
あー、ご飯……。
もったいないなぁ。
前世で給食の時間に『3秒ルール』と言って、床に落ちた唐揚げを平気で食べていた男の子たちのことを思い出す。
心底羨ましい。
ここでは、落ちたものに手を伸ばすことさえ、ご主人の許可がなければ許されないのだ。
くっ、地味に辛い。
グゥ
お腹が鳴った。
私……まだ唾しか舐めてないんですけど。
いや、舐めてないけどね?
空腹を紛らわすために、他のことを考える。
この白目むいてるエルフさん、名前なんて言うんだっけ?
聞こうにも、声帯……とられた後だったからなぁ。
慰め用の奴隷は、いつもすぐにいなくなる。
カッツォさまのプレイがハードすぎて、いつも行為中に死んでしまうからだ。
たぶんこの人も、すぐに死ぬ。
それにしても………。
流石はエルフ。
おっぱいが大きい。
暇すぎて、自分の胸と見比べる。
私のがリンゴだとしたら、あっちはメロンか。
くぅっ!
そ、それでもお尻とか、全体的なプロポーションなら負けてないから!
……まあ、誰に見せるわけでもないんだけど。
幸いにも、私の出生にまつわる因縁のせいで、誰も私に触れようとしない。
何十、何百という女奴隷を食い潰してきた、あのイカれ性獣のカッツォさまですら、一度たりとも私を襲おうとしなかった。
なぜかというと、それは——。
「おい」
「?」
ヒュンと風を切る音がした。
突如飛んできたそれが、私の眼前、空中で静止する。
………え、あぶな。
ナイフだった。
「ハッ!なんで止めれんだよ!やべぇなお前!」
遊び感覚で私にナイフを投げてきたのは、カッツォさまの隣にいるタルォさまだ。
いつも色のヤバい薬草をしゃぶって、目がガンぎまっている。
10分に1回は、ナイフと草をペロペロしないと気が済まない体質らしい。
「……………(ニコッ)」
笑ってみせるが、背中には大量の冷や汗がぶわっと噴き出していた。
し、死にかけた!!まったく笑えない!!
なにほんとこの人、いきなり投げてくるとかどうかしてるって!!
やべぇのはアナタの方だよ!?
マジで止めないと、いつかホントに殺される!
「あ、あの———!」
「………はぁ、あ゛ぁ゛、このクサぁ、やっばナマがいぢばん゛ぎぐわぁ~」
ああ、やっぱダメだ。
聞いてくれない。
カッツォさまがセックス中毒なら、タルォさまはシャブ中だ。
蛇足だが、どちらもスキンヘッドのバカだ。
目隠しをしたまま絨毯に染み込んだ唾を見つけたり、ジョッキにお酒をギリギリまで注いだり、眉間に飛んでくるナイフを止められる理由を『魔族だから』とその一言で片付けている。
バカだから。
何でもかんでも魔族というワードで済ませるのはどうかと思うが、私にとっては好都合なので、特に訂正はしていない。
「おいグズぅ~、そのナイフ、トいどけ~」
え。
えー。
このシャブ中、いい加減にしてほしい。
研いだらそのナイフで、また投げてくるじゃん。
といっても、言い返せるワケもなく。
「……かしこまりました」
渋々、宙に浮かんだナイフに目を向ける。
まったく、私に超能力があるとでも思っているのだろうか。
でも。
仕方ないよね。
この人たちには、視えていないのだ。
手のひらにナイフが刺さったまま、そこにいる。
死んだはずのママが。
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